short story

□先生と生徒の事情。
1ページ/1ページ


生徒山本×教師獄寺
大丈夫な方のみどうぞ













どうして、好きになってしまったのだろう。
よく考えてしまう。
好きになって、よかったのだろうか。



授業は上の空。
外はいい天気。
授業なんてかったるい、はやく部活がしたい、そのぐらいに思っていたけど、新任の教師がひとり、入ってきてから俺はすごく変わったのだと思った。

新任の英語教師。
もしかして一目惚れ、だったのかもしれない。
男同士だし、歳は10も違うし。
おかしいと思った、でも、俺はそんな先生に惹かれていた。


「せんせー、そこ、わかんない。もーちょっとゆっくり英文言って」


はいっと手を挙げ言った。
獄寺先生、の英語を話すスピードは早い。たぶん俺の早口言葉を言うスピードより早い。
俺の脳みそじゃあまず聞き取ることもできなくて、ましてや理解することなんて余計できない。

それでも英語は嫌いじゃなかった。
先生の発音の良い英語はとても心地よくて、何て言っているのか理解できないけれど、好きだった。


窓際の列の前から四番目。が、俺の席。
外の景色も見れるし、グラウンドで体育の授業何してんだろって覗くこともできる。教科書立てて寝ればだいたい見つからない。絶好の席だ。


「はあ?こんなのわからねー奴なんてお前だけだ、つーか敬語使いやがれ」
「え、うそ、」
「マジだって、ちなみに今回のテストお前が最下位」


先程渡された13点の答案用紙を眺めた。
え、マジで?俺最下位?
隣の席のツナの点数を見れば、46点。
赤点でもない、うそだろ、いつもツナと同じぐらいの点数だったのに、俺。


「え、ツナ、どうしたの」
「あ、最近家庭教師やってるんだ、俺」
「マジで?だからか…」
「いや、それに前の先生より獄寺先生のほうが教え方良くてわかりやすいからさ」


その話を聞いてそうなのか、と思った。
先生あんなに口悪いのに、みんなに評判が良い理由がわかった気がした。

わかりやすいかわかりやすくないか、授業真面目に聞いてるつもりなんだけど、そういうことはよくわからなかった。
というか、どうも先生に目がいってしまうというか。
でも仕方ない、俺は先生が好きなんだから。


「山本、お前今日補講」
「え、何で!?」
「だから、赤点お前ひとりなんだよ」


周りからくすくすと笑い声が聞こえる。
先生はあきれたような顔をして、そのまま授業を続けた。


生徒と先生の恋なんて、禁断の恋。
叶わない恋だって知ってる。

それでも、ふとした瞬間、よく視線が合ってしまったり、先生と会話しているとき、顔がほころんだりすることが。
ありえないって思うけれど、やっぱりどこかでは期待しちゃってる。

なんて、都合良いことかな。















「…まだ問題解けねぇの?」
「ちょっと待って、あと少しだから」


しん、と静まり返った教室には外から野球部の声やバットの音が響いてきた。
毎日思っている、部活したい、そんな考えは微塵もなかった。
それはきっと先生が目の前にいるからだろう。


「あ、今部活したいって考えてただろ」
「や、思ってない!というか、補講の方がいいかな…なんて…思って、ました…」
「ぶっ!お前って、変なの」


そんな事言ったって早く終わんねーよ、と先生は笑う。
俺が本気で言ってるようには聞こえないのかな、やっぱり。
目の前の先生の顔をじっと見つめると、いつも教室の窓の前から四番目の席で見ている顔とはちょっと違くて、なんていうか、繊細で。

また、心臓が高鳴った。



「その碧の瞳、綺麗」



そっか日本人はこんな色してる奴いねーから珍しいかもな、と視線はノートに向けたまま先生は言った。
その伏せた目に付いている長い睫毛も、シャンプーの香りがふわりと漂う銀髪も、艶のある唇も。ほんとは目以外にも綺麗なところがたくさんある。



「先生ってハーフなの?クォーター?」
「そんなこと訊いてどーすんだ、ほら真面目にやれ」
「だって気になるんだもん」



俺、先生が好きだから。
何でも知りたいって思っちゃうんだよ。


なんて言ったら、自分はどう思われるのだろう。
大人の対応、をされてしまうのか、それとも、俺も好きだ、なんて。
もし、そう言われて付き合うことになったら。

…想像して舞い上がっている自分が馬鹿馬鹿しくなってきた。


そんなこと、ありえないに決まってるのに。




「…先生、すき」
「………は?」



思わずそう呟いてしまい、こちらを見上げた先生とばっちり目があった。
…えっと、俺、今何って言ったっけ。先生、すき。
自分が思わず言ってしまった言葉を思い出して、急に恥ずかしくなった。じわじわ、顔に熱が上がってくる。


「あ、違う、えーと、もし俺が先生のこと好きだったらどうする?」


どうしよう。何訊いてるんだろ、俺。
シャーペンを持つ手が緩んで、地面に落ちた。
カラン、と小さな音が響く。



「十年早いっつーの、って言うかな」



先生は笑って、もう一度教科書に視線を移した。
ほら、早くしろよ、と先生が言って、英文を読み上げる。

…十年早い、か。
そんなこと言われても、歳が追いつける訳でもないし、それに、心の中の熱は上昇し続けるばかりで。





(十年なんて、待てない)












授業は上の空。
外はいい天気。

テスト返すぞ、と澄んだ声が教室に響く。
ざわざわ、クラスメート達が騒がしい。
山本、と先生に名前を呼ばれてテスト用紙を取りに行く。
先生がしかめっ面をして答案用紙を眺めて、口を開いた。



「…放課後教室に残れ、またひとりだけ補講だ」



え、そう思い渡されたテスト用紙を見れば、また13の数字が書かれていた。


どうして好きになったかなんて、わからない。
先生と生徒の恋は禁断で、叶わない。
それはわかってる。
けれど先生を好きになって、良かった。そう思わない日は一度もないし、それに、


この恋は、もう、止められない!




「え、うそ、ラッキー!」
「…ばぁか。補講で喜んでる奴、初めて見た」






今日も俺は、貴方に夢中です。











end
───────────────
ブラウザのバックでお戻りくださいませ。


[戻る]
[TOPへ]

[しおり]