short story
□その手、繋いで
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「獄寺」
俺はよく帰り道にこうやって、愛しい人の後ろを歩く。
俺より細い背中。さらりとした銀髪。
それから、名前を呼ぶ。
「獄寺」
一回呼んだだけじゃきっと、振り向いてくれないから、もう一度。
そうしたら、ほら。
「…何だよ」
ちらりと後ろを向く。
その、ちらりとこちらを向く獄寺は少し不機嫌そうだけど、すごく綺麗で。
そんな顔した獄寺が好き。
だから俺は時々獄寺の後ろを歩く。
「別に、なんでもない」
…うそ、そんな振り向いたときの獄寺の顔が見たいから。
なんて言えばどんな反応するんだろう、きっと、顔を真っ赤にして怒るのだろうか。
ふうん、と獄寺はつまらなさそうに返し、再び前を向いて歩き始めた。
カツカツ、と二人の歩く音が静かな道に響く。
心地の良いリズムだった。
「ごーくーでーらっ」
「…んだよ」
「こっち、向いて?」
またなんでもない、って言うんだろ、と前を向きながら獄寺は言った。
違う、なんでもないんじゃなくて実はその振り向いたときの獄寺の顔が好きだから俺は名前を呼ぶんだ、って言いかけたけどその言葉は飲み込んだ。
もしそんなことをうっかり言ってしまえばもう一生振り向いてはもらえないだろう。いや、口すら聞いてくれなくなってしまうかもしれない。
「……となり」
「…え?」
「隣、歩きたいんなら歩けばいいだろ」
一瞬、その言葉に耳を疑った。
だって、獄寺がそんなことを言うのはこれが始めてだし、隣に歩くと嫌がる、あの獄寺が。
後ろからもふわっとした銀糸から見える耳がすごく赤いのもわかる。
「…えへへ、じゃあお言葉に甘えて」
笑って、獄寺の隣に並んだ。
なににやけてんだ、きもい、と言われたけど気にしない、だって照れ隠しだってわかるから。
獄寺は煙草を吸い、ポケットに手を突っ込んだまま歩いていた。
歩き煙草は良くないと言えば、うるせぇ、と面倒くさそうな返事が返ってきた。
「なに、見てんだよ」
「え、いや…別に」
「…ふうん」
煙草を銜える獄寺の横顔も好きだ。
歩きながらまた見つめていたら、その視線に気付いたのか獄寺はちらりとこちらを向いた。
横顔が正面になり、さらに心臓がとくんと鳴った。
「…ん」
「……?」
「手」
「…え?」
「…だーかーら、手、繋ぎたかったんじゃねえの?」
「あ、ああ…」
獄寺が手を差し出したと思えば、そんなことを言ってきた。
俺が手を繋ぎたいと思っているように見えたのか、でも嬉しいから手を繋いだ。
「なんか獄寺からそんなこと言うなんて、珍しい」
「な、俺は別に、周りに誰もいねぇし、つーかてめえが手繋ぎたそうな顔してたから、」
「まあまあ、俺は嬉しいからいいの」
笑いながら獄寺の顔を見れば、真っ赤になっていた。
なんだか、そんな獄寺が可愛くて、愛しくて、おでこにそっとキスをした。
唇を離せば更に顔を赤くしている獄寺がいて。
「な、何…っ」
「周りに誰もいないから、大丈夫」
結局俺は獄寺ならどんな顔してても好きなんだな、そう思い、握っている手をさらに強く握りしめた。
end
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夏山まちさま11000キリリクで甘い山獄です。
ご要望と違うものでしたら書き直します…!
リクエストありがとうございました!