short story

□濃厚なキスをひとつ
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ただ単にキスがしたいと思った。
目の前で堂々と交わされるくちづけ。

女の人の真っ赤で綺麗な唇より、それに重なっている城のドクターの男の唇に俺は釘付けだった。
なぜなのか理由はわからない。


でもそれを今考えると、もしかしたら、その頃から恋が芽生えていたのかもしれない。









「なあシャマル」
「…………」
「シャマルー」
「………」
「シャマルって呼んでんだろ!聞こえねーのか!?」
「………ちっ」


ふうと紫煙を吐き出し、うっせえガキだな…と小さく呟くシャマル。
シャマルに煙草はすごく似合っていた。
なんていうか、大人だ。
シャマルは大人だけど、シブい大人、っていうか。


「うっせー!ガキじゃねーよ!!」
「はいはい、で、何、ハヤト坊ちゃま」


冷やかしみたいな口調にまたイラッとした。
確かに俺はまだ7歳だしガキかもしれないけど、外見だけでガキ扱いしないでほしい。
中身はちゃんとしたおとなだ!


「…煙草、吸うのやめろ」
「なんで?」
「いいから!やーめーろっ」
「何だ?ったく珍しいな…」


ふう、と吐き出した煙草の煙はなぜだかキラキラしてみえた。
それがくしゃ、と灰皿に押し付けられる。


「目、閉じろ」
「さっきから命令ばっかりなんだよ…、何したいかはわからんが早く済ませろよ」


またすぐに女に会いに行かなきゃなんねーんだから。

シャマルはそう言うと目を閉じた。
…むかつく。
女、女って女ばっかじゃねーか。

背伸びしてキスしようと思ったけど、俺の今の身長では届かない。それもむかつく。シャマルがでかい。


「しゃがめ!」
「…はいはい」


意外と素直と目の前にしゃがみ込んだシャマル。俺の身長とおんなじぐらいだ。
目を瞑っているシャマルを見る。
…意外と、整っている顔だ、と思った。
心臓が、ばくばくする。
女の前でデレデレしている顔とは違って、ちょっとだけだけど、かっこいい…そう思ってしまった。



「ちゅーしたいんだろ?」



いきなり動いた唇にびっくりした。
やっぱり、ばれてた。
このままおとなしくしててもどうしようもないから、うるせ、黙ってろと言い、目の前の唇に自分のそれを押し当てた。
押し当てるだけの、ただのキスだった。

…本当はもっと、女の人に負けないぐらいののうこうな、キスがしたかったのに。


…やっぱりむかつく。
ぽつりと呟くと、ん?とシャマルが可笑しそうに訊いてきた。


「…ばか、スケコマシ、ヤブ医者」
「……お前にはまだ早ぇんだよ」


頭をポンと叩いて、また子供扱いをしてきたシャマルがむかついたから足を思いっきり踏んづけてやった。















「…今思い出せば俺バカだよな、なーんであんなおっさんにキスしたかったのか、意味わかんねぇ」


まああの頃はまだギリギリでおっさんじゃなかったのかも。
なんて言うとふう、と煙を吐き出すシャマル。
こいつはなんにも変わっていない。
吐き出した煙がキラキラして見えるのも、そのまま。


「…まあ、俺も今じゃ、のうこう、なキスぐらいできるけど」


俺も煙を吐き出す。
シャマルみたいにキラキラはしていない気がした。


「…なんなら試してみるか?」


煙草吸うのやめて、目閉じろ。

あのときと同じように、目の前にはシャマルがいた。
ふ、と笑い煙草の火を灰皿に押し当てた。
これ、逆じゃねえの。と思ったけどゆっくりと目を閉じる。





唇が重なり合い、交わされる濃厚なキスがひとつ。

それはとても情熱的で、濃く深いキスだった。














end
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