short story

□ぬくもり
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+3ぐらい
微えろです











獄寺とずっとずっといっしょにいたくてイタリアに来た。

――マフィア関係、ツナがボス。
来てから数日、まだわからないことが俺にはたくさんあった。


今日は初めての任務。
とりあえず初めてだから、って獄寺と、数名の部下と。
初任務としては、何だかあっけなく終わった。
…けど。


「…おつかれ、……パスタでいいか?」


憔悴していた俺に獄寺は優しく問いかけた。
ああ、と返事をしてソファにもたれる。
もたれかかったときにだいぶ力がラクになったので、ああ俺疲れてるんだな、と思った。


(マフィアって、大変な仕事なのな)


自分の手をぼんやり見つめる。
――この手で、何人斬ったのだろう。

くるりと獄寺はこちらを向いてできたてのパスタを持ってきてくれた。


「……食わないのか?」


美味そう。しかも獄寺の手作り。…なのに。
食欲が全くといってもいいぐらい、なかった。


「…わりぃ、」
「まあ、無理すんなよ。別に食わなくてもいいから」


獄寺はすこし微笑んでパスタをキッチンまで持って行った。


――あの、人を殺した感覚がまだ残っている。
生臭い血の匂い、人の肉を斬る感触。
悲鳴、叫び声。
思い出す度、気持ち悪くなる。




「……山本?」




ぼんやりしていた俺に、獄寺が手を目の前で振っていた。


「…どした?大丈夫か?…って、……」


心配そうな顔。


急に俺は獄寺の体中を弄るように抱きしめていた。
……まるで、温もりを求めるように。
そのまま、唇に深く深く、口付けをした。
貪るような、啄むような、深い、深い。









愛しい、守ってやりたい。
でも自分はこれから、この愛しい人を守っていけるのだろうか。






こんな、死と隣り合わせのところで。










「…ごくでら……っ」


唇を離すと、獄寺は顔を真っ赤にして、でもきょとんとした目でこちらを見ていた。
それから俺はまた弄るように、獄寺を抱きしめる。


「山本…っこんなとこで、やめ、」


獄寺のベルトに手を掛けると、少し押しのけられるように抵抗されたけど、すぐにそれはなくなった。

……そこから先は、もう本能で。








「っ、あ」



気付けば俺の下に組み敷かれている獄寺。
抱いた。無我夢中になって。

キスを体中にして、唇にも何度も何度も。
ベッドの上じゃなくて、つめたいフローリングの上で。
絶対痛いだろうな、ごめん獄寺、でも今の俺にはそんなこと考えられない。

……怖い、これは恐怖だ。
自分が平気で人を殺すようになること、それと、自分も殺されるんじゃないか、




…獄寺を守れなかったら、どうしよう、ってこと。








「…っ、山本…っ!」


「獄寺…っ」














複雑な思いがたくさん脳内を駆け巡っていた。

けど、獄寺は子供のときからこんな思いをしていたんだよな、マフィアとか、きっと人の死もたくさん見てきたのだろう。



「………ごめん、ごめんな、獄寺…」



ぎゅうと抱きしめて獄寺にごめんって、何度も言った。

自然と涙が出てきた。
泣くのなんて、何年ぶりだろう。
獄寺は小さいときから、こんな辛い思いをしていたんだ、なんて思えば余計に涙が溢れ出た。

…情けない、と思った。
恐怖に負けて、ぬくもりを求めて、獄寺を抱いて。
俺だけが辛い思いをしている訳じゃないのに。



「…ん、まあ、無理もねぇよ……初めて人を殺して、平然としてる奴なんていねえ…」
「…ごめん」
「もう謝んじゃねーよ、別に、気にしてないし」
「……怖かった。初めて人を殺したのもそうだけど、これから獄寺を守っていけるのか、ってことも…」



情けないと思われただろうか、弱音を吐いて、泣いて。
涙は拭っても拭っても溢れるばかり。

いつの間にかふわり、と抱きしめられていた。
獄寺の腕の中は温かくて、ぬくもりがあって。
それを感じて、安心して、また涙が出た。



「…バカ、そんなに俺は弱くねえよ…っ」
「……ああ…」
「俺もお前を守るから」
「うん……」
「それと、」






…人ってどうしてこんなにもあたたかいのだろう。







「…辛くなったら、いつでも抱きしめてやるから」










end
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