short story

□これが最後の願い
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※死ネタです
 大丈夫な方のみどうぞ。















意識がぼんやりと戻ったときに俺が見たものは隼人の今まで見たことのない、すごくすごく心配している顔だった。

…どうしてそんなに心配しているの、そんな顔してたら俺まで心配になる。
今すぐ抱きしめて、その不安そうな顔を笑顔にできたらいいな。
そう思って手を伸ばそうとしたけど、手が動かない。
ちらりと自分の手を見ると血で赤く染まっていた。


ああ、そういえばさっきやられたんだ。

目の前の敵と戦っている途中、パン、と後ろから聞こえた乾いた音の銃声。
後ろを振り返りキン、と銃弾を刀で斬った。たぶんそれがいけなかった。
後ろを向いた俺をチャンスと思ったのか、剣を振る目の前の敵。
それを慌てて剣で受け止めたけど、後ろから銃声がまた聞こえたときにはもう遅かった。






「……っ、武!!」



ぼんやり。
ぼんやりと隼人の声が、聞こえる。

薄く目を開くと目の前には隼人の姿と数人の部下。
周りには、血。
何やら俺に応急処置している部下。
ちらりと自分の胸辺りを見れば、そこからたくさん血が流れていて、ああこの血は俺のなんだ、隼人のじゃなくて良かった。と思った。




「……や、…と……」

「喋るんじゃねぇよ!!黙って目閉じてろ!」




…ああ、俺、死ぬんだな、と思った。


周りの部下たちの動きにもすごく焦りがあるのもわかるし、俺にももう血の気がなくて傷口は痛みを通り越して感覚がない。
声もかすれてなかなか出ない。
今まで目の前で死んでいった部下を何人か見たけど、大抵遺言を残す人が多かった。
自分の死期なんて、わからないものだと思っていたけど案外そうでもない。
結構わかるものなんだと思った。

…意識がぼやぼやする。






「…たけし…っ」






隼人にこんなに悲しい顔をさせたくなかった。
…その声を聞いて死にたくないと思った。

でも、もう。

死ぬってわかってるんだ、だから最期には言いたいことがあった。
まるで遺言だ。だけどそれでもいいから言いたかった。


息を吸い込むとひゅう、と音が鳴り咳き込みそうになったがそれを必死で堪える。






「…俺はさ…後悔してない。マフィアになった、って、ことも、隼人に…逢ったことも」
「…もう、話すなって言ってんだろ」
「どうしても…言いたくてさ、俺、隼人に出逢って良かったって…思ってる」
「話すなって言ってんだろ…っ!」
「…好きだし、愛してる。…こんなに人を好きになるのは、隼人だけだったし」
「……………」
「…もう隼人のことを守ることはできないけど、」
「…黙れ…っ」






ふわりと唇が重なり、言葉が遮られる。
全身の感覚はなかったけど、隼人の柔らかい、温かい唇の感覚はあった。





「死ぬみてえなこと言ってんじゃねーよ……っ」



「……ごめん、な」





ポツリ、と頬に温かいものが落ちてきた。
隼人の顔を見ると、泣いていた。
そんな悲しい顔を見ると俺まで涙が溢れてきた。
傷口から流れる血と同じぐらい、溢れて溢れて止まらなかった。


どうせ死ぬなら、隼人と一緒に暮らして、年をとるまで一緒にいて、幸せな時間をたくさんたくさん過ごして。

もっと隼人と一緒にいてから、死にたかったな。
でもそれは叶うことなく、こんなあっけない死に方、あるのか。






「…隼人、笑って」





でも最期はこんな、隼人の泣いた顔じゃなくて思いっきり笑った顔を見たい。







「…ばっかじゃねえの…っ」





いちばん最後に俺が見たのは、涙でぐしゃぐしゃだけど、隼人の今まで見たことのない、すごくすごく綺麗な笑顔だった。









それともうひとつ、俺の願いは。









「……隼人、俺の分も生きて」










涙を流しながら、うんと頷きもう一度笑う隼人を見て、俺はゆっくり瞳を閉じた。









貴方をずっと想うことができて、俺は幸せでした。



…それと、貴方が死ぬまでずっと俺は想い続けるから。









幸せを、ありがとう。












end
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