short story

□それはきっと恋の予感
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“今日の夜、メールするから”




特に用もないのに今日山本にそんなことを言われた。
バカ、してくんな、迷惑だし、そう返したけど絶対にメールすると頑固に言い、山本はそのまま部活へ走って行った。


その日野球部は夜練もあるらしく、帰りはいつものように山本を待つことはせず、十代目と二人で帰った。
なんでいきなり山本がそんなことを言ったのか気になっていたら十代目にどうしたの、何か考え事?と心配されてこれじゃいけない、と思い大丈夫です、と笑った。
山本のことだ、そんな気にすることはない。
俺は十代目との会話に集中することにした。



十代目と別れ、マンションに着くなり、俺はダイナマイトの手入れをすることにした。
昨日イタリアから送られてきたダイナマイトのたくさん入っているダンボールをがば、と開けひとつひとつおかしいところがないか確認し始める。

そんな細かい作業も三十分ほど続けると疲れてきて、ベッドの上にごろんと寝転がると眠たくなって目を閉じた。






変わった夢を見た。

ふわふわしていて俺は宙に浮いているみたいだけど、普通に歩いたりすることはできる。
でも辺り一面は真っ白で、どこが地面でどこが空なのかわからない。幻想的な世界だった。
ふわふわと彷徨っていると遠くで誰かの人影が見えて、目を凝らして見るとそれは俺と山本だった。

近寄ると、俺と山本はキス、していて。
どうして、と思ったけど夢の中の俺は全く抵抗もせず、むしろ山本からの口付けを受け入れている様に見えた。



そこにいる俺達はまるで恋人同士みたい。


愛し合っている二人を見ているとなんだかありえなかった。
どうして、どうして俺と山本が?
そんな疑問がたくさんあったけど嫌な気分にはならなかった。それもどうしてだろう。
むしろだんだん恥ずかしくなってきた。
何秒そんなことしてると思ってんだ、と俺の目の前の俺を見るとそいつはにやりと笑って、そして。



“いいかげん、自分の気持ちに気付けよ”



とだけ俺に言い、目の前の俺は再び山本の首に手を回した。



なに、それ、意味わかんねえ。





そこでぱっちりと目が覚めた。
さっき見た夢のことを思い出すと顔が赤くなるのがわかった。
…俺が、山本とキス、して、抱き合っていただなんて。


そういえば、と思い携帯を開くと時刻はそろそろ夜の九時。
受信メールを見るとメルマガだけでがっかりした。山本からメールが来ていない。
…いや、山本からメールが来ていないからがっかりしていた訳じゃなくて、それが気になっている訳じゃなくて。

そう自分に言い聞かせ、再びベッドに寝転ぶ。
もう一度寝ようと思ったけれど、携帯に手が伸びて結局眠ることはできなかった。

…本当は、山本から何のメールが来るのか、とか部活はもう終わったのかな、とか。
すごく、山本のことばかり考えていた。
どうしてこんなどうでもいいことが気になっているのかわからい。
自然と新規のメールには『今日言ってたメールってなんだよ、それと部活まだやってんのか?』と打ち込んでいて、慌てて全文削除した。



画面をぼんやりと見つめているといきなり携帯が震えてびっくりした。画面を見ると、山本。
メールの内容は遅れてごめん、部活が意外と長引いたのな、となんでもないメールだった。
それを見てすぐに、別にお前からのメールなんか待ってねえよ、その一文だけ返した。


…本当は、俺になんてメール送ろうとしたんだよ、とか訊きたいけど。
しばらくして、また携帯が震えた。
今から電話してもいい?内容はそれだけのメールだったけど俺の心臓は大きく跳ねた。


頭の中が山本でいっぱいだ。
こんなに意識したことなんて、ないのに。
どうして、胸が締め付けられるのか、
もしかして、これが。



携帯がまた震える。
次は、メールじゃなくて、電話のほうで。



恋なんて、知らないあいだにしているものだって聞いたけど。
これはもしかして恋の予感?
それとも、もう。



震える携帯を手に取り、通話ボタンを押す。
電話越しに聞こえるのは、いちばん聞きたかった声で。







この気持ちに気付くのは、もうすぐ。













end
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