short story

□きみの傍にいたい
1ページ/1ページ






「お前しつこすぎ、俺にもう関わんなよ」




…そう獄寺に言われて、もう三日。
俺は三日間獄寺の家には行ってないし、学校での会話は他のクラスメートと同じような、どうでもいい会話だけ。

獄寺にそう言われたのは、いつも通りの些細なことで。よくある喧嘩、みたいな。
いつもだったらすぐに俺が謝って、何事もなかったかのように、いつも通りの関係になるのに。
でも。
そればっかりじゃなんか不公平だよな、俺から獄寺を求めてる、そんな感じがして。



たまには、獄寺から俺を求めてほしい、なんて思った。



それから俺はなるべく獄寺につきまとわなくして、他のクラスメートと行動したり、昼飯は野球部の友人と食べたり、まるで獄寺と出会う前のように行動した。


「なあ、今日って六限のあと集会あったっけ」
「知らね」
「そっか」


会話っていってもこんな感じの、ただのクラスメート、みたいな感じで。
全然恋人同士の会話ではなかった。
獄寺から俺の家まで会いにきてくれるまでずっと我慢してたけど、もう三日も経つ。
電話ぐらいしてくれてもいいのに、と思いながら俺は毎晩携帯とにらめっこ。
何回か電話をかけようとした。メールも送信ボタンを押しかけた。
でもそれじゃあいつもとおんなじ、俺から獄寺を求めてるんじゃないか。
そう思って三日間電話もメールも我慢した。



部活も終わり、泥の付いたままのユニフォームのまま家への帰り道をひとりトボトボ歩く。
いつもだったら、獄寺が文句言いながらも部活を待っていてくれて、帰り道もいっしょだったのに。
ひとりで歩く帰り道はすごく虚しくて久しぶりな感じがした。



「…ただいま」
「おう、武、おかえり」


家に着くと、玄関でパタパタとユニフォームに付いた泥を払い、中へと入ってそのままお風呂場に直行した。
汗をかいたあとのシャワーは気持ちいい。汚れを落として湯に浸かる。
さっぱりすることだけど今日はさっぱりもしなくて、変なモヤモヤが残っただけだった。

もしかして獄寺は俺を求めてなんか、いないのかもしれない。
俺だけの、一方的な恋愛だったら。

ぐるぐるぐる。
嫌なことばかり思い浮かんだ。
でも、今すごく獄寺に会いたい。
会いたい、会って抱きしめたい。

三日間も獄寺に触れていない。
なんだかおかしくなりそうだった。







…気がつけば、家を出て走っていた。
馬鹿だと思った。
どうしてあんなふうに獄寺から声かけてほしい、とか思っていたんだろう。
まだ乾いてない髪も、薄いトレーナーから入ってくる冷たい風も、気にはならなかった。
とにかく、一秒でも早く獄寺が見たい。
声が聞きたい。
拒まれても、家を追い出されたって構わない。

今すぐ、早く!きみにあいたい。

マンションに着いて、エレベーターを待っているのももどかしくて、獄寺の部屋の階まで階段を上った。
見えた。獄寺の部屋。
急いでチャイムを鳴らそうとした瞬間、玄関からいきなり獄寺が出てきてぶつかった。


「え…獄寺…?」
「!やま、もと……」


驚いた表情をしている獄寺の瞳は、少し潤んでいるように見えた。
そしてそのまま俺の胸にこつん、と頭を埋めてきた。



「…っ、なんで、」
「わり、俺、獄寺に会いたくて会いたくて、もう限界だった」
「…そう、じゃなくて」






…――なんで、すぐ会いに来てくれなかったんだよ






ポツリ、と呟いた獄寺の言葉にびっくりして、嬉しくて。
ぎゅう、って強く抱きしめた。



「…俺さ、変なことで意地張っちゃって…獄寺から会いに来てくれないかなって思ってた。でもそれもどうでも良くなってて、気が付いたら獄寺の家まで走っててさ」
「………ばか」
「…ごめん、でも俺、」




やっぱ獄寺がいないと、駄目、なんだ。
きっと生きていけない。それぐらい。





俺のこと、もっと必要としてよ、獄寺が必要なら全部あげるから。




ずっとずっと傍にいたい。


…傍にいさせて。














end
───────────
ちなみに獄寺が玄関を飛び出したのは山本に会いに行くためです(笑)

ブラウザのバックでお戻りくださいませ。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]