short story

□にがくてあまい
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ガラリとドアの開く音が、静かな保健室に響く。
ちらりと外を見れば、雨。
雨の日に、しかも授業中に此処に訪れる奴は決まっていた。


「…また来たのか」


入ってきた奴はやっぱり、校内でたった一人しかいない、銀髪のガキだった。
雨の日は必ずといってもいいぐらい、コイツは保健室に来る。
理由は、屋上で煙草が吸えないから、だそうだ。

いいじゃねえか、とポツリと言って、ベッドに座り煙草に火をつけるハヤト。

あーあ、保健室に来たのは女の子だったら良かったのに、そう思ったがハヤトが煙草を吸う姿はすごく色っぽく見える。
コイツが子供のころはそんなこと思いもしなかったのに(今もガキだが)。
馬鹿馬鹿しいと思ってポケットから煙草を取り出した。


「…毎回言ってるが、保健室で喫煙は禁止だ、つーか校内全部でだけどな」
「わーってるっての、とか言ってるアンタも吸ってるだろ」


まあ、結局そうだから言ってもあまり変わらないのだけれど。
ちっ、と軽く舌打ちして俺も煙草に火を付け、煙を吐き出す。
他の奴に見つかったら俺もハヤトもヤバいだろうが、まず保健室に誰かが来るなんてことも滅多にないから大丈夫だろう。

とりあえず目の前にドサリと置かれている書類を片付けることにした。…ったく、教師なんてめんどくせぇもんだ。


「…なあシャマル」
「あ?んだよ今忙しいから後な」
「何分で終わる」
「知るか」


ハヤトはいつも俺に構おうとする。特に用事があるときにつっかかってくんだよな、これも城にいたガキのころから。
こう冷たく流すと寂しそうな目でちらちらとこちらを伺う。
…無視してんのもなんだか可哀相だしとりあえず話だけ聞くか。


「…で、なんだ?」


目線と走るペンは書類に向けたまま、そう聞いてみた。


「……別に、」
「なんだよ、聞いといて」


ちら、とハヤトを見ると何を思っていたかすぐにわかった。
ペンを置いてふう、と紫煙を吐き出し、机の引き出しに隠している灰皿に煙草の火を押し当てた。
そしてつかつかとベッドに近寄り、ハヤトの隣に座った。


「…ふうん、そういうことか」
「な、なに」
「何じゃねえだろ」


しばらく会えなかったから、さみしかった、じゃねえの?と囁けば耳を真っ赤にするハヤト。
ったく、わかりやすい奴。


「別にそんなんじゃねえって、あっち行けヤブ医者」
「…別に毎日来ても構わねえよ?どうせ暇なんだからな」
「……えっ…」
「まっ、ゆっくりしてけよ」


ポンポンと頭を叩いて立ち上がるとハヤトが白衣の裾をぎゅっと掴んでいた。


「シャマル…」
「あーはいはい、ハヤトちゃんはまだまだお子様でちゅね〜」
「ふざけんなっ、死ねっ」
「ん、わかったわかった」



唇を重ね合わせれば、ほんのりと煙草の味。にがい、煙草の味。






「……苦ぇ」
「テメェもだろが」






此処は、ふたりだけの秘密の楽園。


なんて、俺にも保健室にも似合わねえ言葉だが。




もう一度交わしたキスも、やはりお互いの煙草の味が混ざりあい、苦かったがどこかすごくすごく甘かった。















end
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