short story

□名前で呼んでよ。
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なんだか山本が変だ。さっきまであんなに元気だった山本が。何だか不機嫌。珍しく。
いつもうざいほど話しかけてくるコイツが今日は無口といってもいいほど。
なんでだろ、俺なんかコイツを怒らせるようなことしたっけ?
…いや、別に普段通りに接してる。
じゃあ何が気にいらないんだろう。


「なぁ、お前なんか飲み物いる?」
「………うん」


なんだかその場に居られなくなって俺はそう山本に聞いて冷蔵庫の方へ向かった。
……もう無言すぎて怖い。山本が。


「やまもとー、アップルとオレンジどっちがいいー?」
「……………」
「……山本?」
「…………」
「…………おい」
「…………」




ぶち。




「だからアップルかオレンジかどっちがいいか聞いてんだよ!…んだよ牛乳無くて悪かったな!」
「……………」


この俺がここまで優しくしてやってんのに、しかも謝ってやってんのに、無視かよ!腹立つ…!


「だいたいテメェ何なんだ急に不機嫌になりやがって!俺がいろいろ聞いてんのに「あー…」とか「うん…」とかばっかりで、俺の何が気にくわねぇっつーんだよ!言いたいことがあるならはっきり言え!!」

「…………から」
「はぁ!?もっとデカい声で話せ!聞こえねーだろ!」
「だって獄寺、俺のこと武って名前で呼んでくれねーから!」



……はあ!?
意味わかんねーよ、なんだそれ!



「俺達付き合ってから結構経つのにまだお互い名字呼びじゃん。俺はそれが気に食わないの!」


ああ、たったそれだけのことでこんなに不機嫌だったんですか、コイツは。



「そんなこと今さら言ってんじゃねーよ」
「でも俺はそれがヤなの、俺と獄寺は恋人同士なんだし、武ってちゃんと下の名前で呼んでほしいんだって!」
「意味わかんねーし!山本でも武でも変わんねえだろ!!どう違うっていうんだよ……って、え、なに」


目の前の山本は、顔を微妙に赤くして、呆けた…っていうか、なんともいえない顔。
…なんつーか、気持ち悪い。


「今獄寺がたけしって呼んだ…」
「……お前そんなに下の名前で呼ばれたいわけ?」
「うん、なんだか名字と名前だと全然違くて、名前呼びだと獄寺との距離がギュッと縮まった感じがする」
「…そんなもんなのか?」
「獄寺、これから武って呼んでほしい」


そう言われたから、たけしって小さく呟いた。
今までずっと山本、って呼んでたから、武、って呼ぶと変な感じがした。



「…それなら、お前も俺のこと、呼べよ」
「……え?」
「…だから、名前で呼べって。もう獄寺じゃなくて」




そう言うと武はにっこり笑って。




「うん、隼人」




そう答えて、いつものようにぎゅっと抱きしめた。





end
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