short story

□ふわふわ
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「う〜り〜〜っ、お前またデカくなった気するな!ん?獄寺からたくさん飯もらってんのか?」


瓜を抱き上げてそう話しかけてる男がひとり、俺は雑誌に目を通しながらチラリとそちらにも目を向ける。
馬鹿が瓜のお腹を撫でるとゴロゴロ、と瓜の気持ち良さそうな喉の音が聞こえた。
そんな俺の視線を感じとったのか瓜は急に起き上がり、ひょこひょことこっちに向かって歩いてくる。


「あ!そっちは行くなよー、ご主人様は今読書ちゅー、邪魔しちゃ怒られるぜ?」
「にょおん」
「ご主人様は怒ると恐いもんなぁ?瓜」


瓜を山本がひょいとつかみ、自分の目線と同じところへ瓜の顔をもってくる。
俺には普段つかむだけで引っ掻いてくる瓜が、山本には何もしない。
…瓜の奴、山本にはすぐに懐きやがって。俺に懐くのにはあんなに時間かかったのに(でも今でも引っ掻かれる)。


「うりっ!」


なんだか無性に瓜をぎゅーってしたかったから、読んでいた雑誌をほったらかしにして山本の腕の中にいる瓜をひょい、とつかんで抱きしめた。
ふわふわ、気持ちいい。
あったかくて瓜の頭に鼻を寄せた。


「あ、瓜ずるい!俺獄寺に一回もそんなことされたことないのに」


なんか野球馬鹿が言ってる。
あまりなんて言ってるか聞き取れない。
ふわふわであったかくて眠たくなってきた。

その心地よさにウトウトと目を閉じようとした瞬間、瓜が短くにょ、と鳴いて。


「…いってぇーっ!」


ガリ、と音と共に腕に痛みを感じて、自分の腕を見ると見事な爪痕が残っていた。
その腕の力が緩んだときに瓜はスルリと腕から抜け出していた。


「ちくしょ、瓜っ!!」
「にょおん」


首をつかんで怒鳴ってやろうかと思ったけど、やっぱり簡単によけられて、サッとどこかへ行ってしまった。
ちくしょう、やっぱ素早い。


「……ぷっ」


先程から声を押し殺して笑っていた山本が急に吹き出した。
…ちっ、うぜえ。
キッと睨み付けてやるといきなり抱き締められた。


「獄寺超かわいすぎ!」
「はぁ?つーか離せっ!」
「やだ」


腕から逃れようとするけど、更にキツく抱き締められて、しかも頭に顔を寄せられた。


「獄寺って、あったかくてきもちいーんだよな。あと髪のにおいも好きだし、なんかぎゅってするとふわふわするのな」
「あ、」


それ俺が瓜に思ってることと一緒じゃん。
コイツもこんなこと思ってたんだ。


「なあ獄寺はどうなの?俺に抱きしめられてさ、どんな感じ?」
「すごく不愉快な感じ」


ちなみに、全然ふわふわじゃなくって、むしろごつごつ、って言うと俺そんなに固い?ってコイツらしい返事が返ってきた。

でも、本当は。
一定のリズムで頭を撫でられたり、ふわりと漂う山本のにおい。
すごく、心地が良い。
このまま眠っちまうんじゃないか、っていうぐらい。
ふわふわ、してる。
山本も周りの空気も俺も、何もかもが。



「獄寺、」



目が合ったと思えば、ゆっくりと近づいていく唇。





ふわふわ、ふわり。
心地よい腕の中、また俺は堕ちていく。








end


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