short story

□独占欲
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…ほら、またその笑顔。
そんな笑顔、他の奴等に見せてんじゃねえ。






「獄寺くん、だ…大丈夫?」


いらいらいらいら。

にこにこ笑っている野球馬鹿を見ていたら自然とそのイライラが顔に出ていたようだった。
十代目が不安そうに俺の顔を覗き込んで、心配そうな顔をする。

十代目にそんな俺のくだらないことで心配させちゃ駄目だ、そう思って笑顔を作った。
でも山本が視界に入る度にイライラが込み上げてくる。

…なんでこんなにイライラするんだ?
山本はいつものようにヘラヘラ笑ってるだけなのに。
なんだかその笑顔がムカつく。


「すみません十代目、ちょっと屋上行ってきます」
「うん、わかったよー」


煙草でも吸えばイライラが収まるかな、なんて思って屋上へ向かった。
煙をゆっくり吸い込んで、吐き出す。
それを何度か繰り返すとムカムカしていたのが取れた、気がした。

でもさっきの山本の笑顔が頭から離れない。
あの笑顔、俺といるときと変わらない笑顔だ。…なんだかむしろ俺といるときより楽しそうな顔してるような気がするのは気のせいか?


(…ばっかじゃねぇの)


…周りの奴等にあんな笑顔見せたくない、なんて思ってる自分が。
山本は誰のでもねえのに。
そんなこと思ってもどうにもならないのに、周りに笑顔を見せていることだけでムカつく。
イライラの原因はニコチンが足りない、とかそんなのじゃなくて。


「獄寺!」


振り返ると山本がいた。
…んだよ、楽しくお話してたクラスの連中はいいのかよ?


「やっぱ屋上にいたのな」
「………」
「獄寺急にどっか行くからさ、結構探したぜ?」
「何しに来たんだよ」
「獄寺いつもより元気なかったし、心配だったから気になって」


無言のまま、もう一本煙草を取り出して、火を付けて吸う。
ふうと煙を吐き出すと少し気持ちが楽になった。


「…クラスの奴等、いいのかよ」
「え?」
「なんか楽しそうに話してたじゃねーか」


ああ、別にくだらねーことだし、と山本はヘラッと笑う。
…その笑顔見る度ムカつく。


「獄寺?もしかして怒ってる?」


不機嫌な俺の顔を山本が心配そうに伺う。


「…別に」
「嘘。ぜってえ怒ってんじゃん」


素っ気なく言うとすぐにそう返された。
山本の顔はいつものふざけてる顔じゃなくて。


「…笑顔。てめぇのヘラヘラした顔見てるとマジムカつく」
「…え?」
「誰にでもそういう顔しやがって、俺といるときの顔とそう違くねえし、楽しそうに見えるし、」
「うん」
「馬鹿みてえ、山本は誰のでもねえのに、なんかお前が他の奴等に笑い顔見せてるだけで不愉快になるし、」


気がつくとそう全部口に出していた。
何言ってんだろ、とにかく思っていたことを全部。
山本の方を見ると、ククッと笑っていた。


「なっ、何が可笑しいんだよ」
「…いや獄寺ってさ、意外と独占欲が強いっていうか」
「べ、べつに俺に独占欲なんてねーし、つかてめぇなんてどうでもいいし」


そう慌てて言った、でも。

山本の笑顔を誰にも見せたくない、俺以外の誰にも見せないでほしい。

これは独占したい、ということなのだろうか。


「獄寺、やばい、嬉しすぎ」


山本は抱き締めて、頬にキスまでしてきた。

なんで、嫌じゃないのか、勝手にそんな風に思われて。
俺は獄寺のじゃねえよって怒らないのか?



「俺は獄寺のだから」



そう思っていたのが通じたのか、耳元で囁かれた。


でも、さ。




獄寺も俺のだから。




なんて続けて言われて、
こいつも独占欲が強いほうだな、と思った。









end
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