short story

□lovingly kiss
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『獄寺、今何してる?ちゃんと飯食ってる?』




そんな電話があったのは山本が野球の遠征に行ってから、ほんの数分。


「…お前いまどこ」
『いまからバス乗るとこ』
「………」


…何を心配して電話をしてきたんだ、しかも今は飯食う時間じゃない。
先程別れたくないとか散々言って、全く遠征に行く気のなかった山本に、わかった、メールとかいっぱいするから、がんばれ、とか俺が絶対言わないようなこと言って(だってそんなこと言わなきゃ離れてくれないから)笑顔で行ってきますしたくせに。

…電話してくるの、早くねえ?


「……あのなあ」
『ん?』
「今行ったばかりだろ?さっき、別れたばっかだろ?」
『うん、でも寂しくて、獄寺の声聞きたかったし』
「だからって出てからすぐに電話する必要ねーだろ!」


そんなことより、遠征のこと考えとけ、と言い放って電話を切った。
遠征に行くときぐらい野球に集中してほしい、って思う。
…でも、声が聞きたい、それだけで電話してきてくれるのは嬉しいだなんて。そんなことを思った自分が気持ち悪くなった。

冷蔵庫にあるミネラルウォーターを一口飲んで、ふうと一息ついてベッドの上に寝転んだ。
特にすることもなくて、ぼんやりと天井を見つめていたらだんだん眠たくなってきた。

山本、もう練習場所には着いたのかなあ、今頃練習してるんだろうな、って俺山本のことばっか考えてんじゃん……













目を開けると窓の外はもう真っ暗で、いつの間にか眠ってたようだ。

部屋を見回すと静まり返っていて、ああそっか、山本がいないからだ、と実感した。
こんな静かな部屋は久しぶりだった。
…いつも身近には山本がいて。



…会いたい、だなんて声に出したら余計に会いたくなった。



携帯に手を伸ばし、着信履歴を見ると山本から数十件。
…自分が寝てる間、こんなに電話してきてくれてるなんて。電話に出られなくてちょっと申し訳ないな、と思い通話ボタンを押そうと思ったとき。


〜♪


山本からの着信。


「もしもし?」
『……もしもし獄寺!?俺だけどっ』
「知ってる。ってか電話出られなくて悪ぃな、寝てた」
『良かった…獄寺に何かあったかと思って心配してた』


良かった良かった、と言う山本にばーか、と返す。



『ごくでら、』
「ん?」


『会いたい、今すぐ』



……結局、おんなじこと考えていたんだ。
会いたい、俺だって、お前がいないとなんだか変な感じ。
いないのはほんの一日だけなのに。




『キスしてよ』




なんて言うから、出来るわけねーだろ、バカ。口先ではそう言って、携帯にはひっそりと唇を押し当てた。



「…早く帰れ」
『……うん、帰ったら獄寺いっぱい抱き締めて、もう俺離さねーから』




帰ってきたら、こんな電話越しのキスじゃなくて。

甘い甘い愛情を込めて、本物のキスをして、もっと愛してよ。









end
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