love story

□キミと僕の初体験
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ああ、どうしてこんなことになっちゃったんだろう。


まだ完全に乾き切っていない髪の毛からはシャンプーの香りがほんのりする。
鏡越しに自分の顔を見る。
だらしない。
ぱんっ、と頬を叩いて引っ張った。

緊張、緊張、緊張。
ドクンドクンと胸がうるさい。

そっとドアを開けると、山本がベッドの上に座ってテレビをぼんやりと眺めていた。
…なに、なんでそんなに余裕あんの、ってちょっとムカついたけど今はそんなことじゃない。


「ふ、風呂、上がった」
「…ん、そっか」
「入れよ」
「うん」


言うと山本は風呂へ入っていった。
駄目だ、また緊張。
さっきだってちょっと声が裏返った気がするし、もうなんなんだ俺。
山本に緊張してるなんてありえない。
毎日のように一緒にいるし、鬱陶しいし。
そう思いたいけれど胸の鼓動は止まらない訳で。

少しでも緊張を和らげようとしてベッドに思いっきりダイブした。
ふかふかする。

だいたい、山本はこういうことって初めてなのか?
そりゃあ、他の野郎に比べるとちょっとは格好いいっていうか、女からもモテる訳だし、ファンクラブだってあるし、この前だってバレンタインデーにありえないぐらいチョコ貰ってたし。
ってそんな話じゃなくて。
初めてじゃなかったらそれはそれで殴るけど、逆にリードしてくれてラクなのかもしれない。

初めての俺にとっては何をすればいいのか全くわからない。
とりあえず雰囲気に任せてここまできたけれど、そこから先は何も知らない。

結局脱いじゃうからなんでもいいんだろうけど、下着はどうすればいいんだろう。見られる訳だし。
下着なに着けたっけ、思い出せない。上下バラバラだったらどうしようか。くまさんプリンターのパンツだったら泣ける。つうか台無し。
…いや、ちゃんと選んだはずだ。大丈夫。

ああこんなに悩むんだったら先に風呂入ってもらったほうが良かった。
いや、でも、



「獄寺ーお待たせ」
「えっ、あ、うん、」


急に山本の声がしたものだからびっくりして、うつ伏せの体勢からその場に正座した。
不思議そうな顔して山本が隣に座ってくる。
ドキドキいってるの聞こえてないかな。

でももうここまで来たらどうにでもなれだ!
さあ来い山本。
そんな気持ちで目をギュッと閉じた。



「…………」
「…………」
「…………、…」


…………。
…あれ?
いくらたっても体に何の衝撃もない。
恐る恐る目を開くと山本はさっきの姿勢のままだった。


「……やまもと?」
「…え、ああ、ごめん」
「…何が?」
「や、なんでもない!」


こいつはこれからするべきことをわかってんのか?
とかいって、女から手を出す訳にはいかないし。




暫しの沈黙。

……気まずい。
カチ、カチ、と時計の音が虚しく響く。
くそ。男なんだから、こういう時こそリードするべきだろ。
半乾きだった髪はすっかり冷え切って、少し肌寒い。


…ああだめ、もう限界。





「俺もう寝る!おやすみ!」
「え?ご、獄寺!?」


布団を頭からがっしり被ろうとしたら山本がすかさず腕を掴んだ。

………近い。顔が。
すぐに目を逸らして下を向く。


「だから寝るって言ってんだよ!」
「ま、待って獄寺、」
「はなせ、よ」


山本の腕を振り払おうとしたらまた、目が合った。
ドクンドクン、ああ、さっきの緊張がまた逆戻り。

そこから、山本も緊張がほぐれたのか、少し指先が、俺の服に掛かった。
え、うそ、これってまさか。


「…ちょっ!」
「うわ!」
「電気!」
「え?」
「頼むから電気消せっ!」
「はいっ!」



山本が電気を消しに行き、真っ暗になった。
ああ、やっとそういう雰囲気になったのに何俺ムードぶち壊してんだよ。


「真っ暗…」
「ご、獄寺、どこ?」
「うわあっ!へ、変なとこ触んな!」
「や、ごめんっ!見えなくてさ」


ああ、なんだか目的からだんだん離れていってるような気がする。
駄目だ。このままじゃもう男がリードとかそんなの関係ない。

山本の頬を掴んでキスをした。


「男なんだから、リードぐらいしろよ」


……って、そう言って、自分がリードしてどうする。
顔から火が出そう。
山本の顔は真っ暗で、どんな表情をしてるのかわからないけれど。


「獄寺」


呼ばれて、胸が高鳴る。
その時に、ぐ、と寄せられたと思ったら抱きしめられていた。
鼓動が聞こえてるんだろうなぁと思うぐらい、ドクドク鳴っているのが部屋に響いている気がする。
けれど、それは自分だけの音じゃなくて。


「………」
「………山本?」
「…俺やっぱり駄目」
「……は?」
「理性吹っ飛びそう」
「………別に、」
「…え?」
「…別にそんなんどうでもいいって言ってんだよ…」


部屋が暗いのが幸いだった。
今の真っ赤な顔を見られていたら、こんなこと言えるわけがない。


「ごめんな?優しくする、から…」


唇が重なり合い、服をそっと脱がされる。
ああ、下着をせっかく選んだのに、真っ暗じゃ、無意味だ。














end
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