love story

□サンシャインガール
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その笑顔を初めて見たときからずっと、それは太陽のように輝いているみたいで、俺はもう釘付けだった。
けれど彼女は学校のアイドル的存在。
狙っている奴らも、少なくはない。
だからいつも俺は、見ているだけしかできなかった。

だがそんな俺にもある時転機が訪れた。
それは、ある朝のこと。
いつものように朝練が終わり、スポーツドリンクをがぶがぶ飲んでいた時。
いつものように憧れの彼女が目の前を通った。この時間帯に彼女がここを通るのはもう把握してある。
名前は、獄寺、隼人。
すらりと短いスカートから伸びた白くて細い脚。さらさらの銀色の髪。碧色の瞳。凛とした、整っている顔。
ふわ、と目の前を通り過ぎたとき、ほんのり、微かにだがシャンプーの良い香りがした。
それと同時に、とん、と彼女のバッグから何かが落ちた。

…これは、チャンスだ。

他は何も考えず、彼女と会話ができる、それだけを考えていた俺は咄嗟にそれを拾い上げ、彼女の腕を取った。


「……あ?」
「あのさ、これ、落と」
「気安く触んじゃねーよ」


一瞬の出来事だった。
その表情はいつも俺が見ているサンシャインガールではない。
まるでさっきスリッパで殺したゴキブリでも見ているような、ものすごく見下されているような、そんな表情をして彼女は俺を見ていた。
ごめん、と謝って手を離せば、彼女は、それやる、とだけ言ってスタスタと歩いて行ってしまった。

一体今のは何だったんだろう。
彼女の落とし物をよく見てみると、煙草だった。
え、こんなの吸ってるんだ。イメージが全くない。けれど、さっきの見下したような表情にはほんのりとそれが似合っていた。
中身には、二本だけ煙草が入っていた。








つまらない授業は出席せずに屋上で時間を潰すことにした。
朝の出来事を思い返しながら、煙草を取り出す。
あの表情をされても、ちょっとトキメいた自分は一体どうにかしているのだろうか。
獄寺隼人の太陽のような、可愛らしい笑顔に俺は惚れたはずだ。
日本人の約八割はMらしい。そんなことを耳にしたことがあるけれど、見下されてドキドキする俺ってもしかするとMなのかもしれない。

パタンと屋上のドアが閉まる音がして、誰だろうとチラリと見てみると、まさかの獄寺隼人だった。


「…あ」


え、まじで、今日って牡牛座の恋愛運よかったっけ、と普段意識して見ていない朝のテレビの占いを必死に思い出す。けれど結局思い出すことは出来なかった。


「……誰?」
「あ、朝煙草拾った…」
「…あぁ、そういえば」


それだけ言うと彼女は俺の顔をじい、と見つめてきた。今度は、見下しているわけでもなく、何かを考えているかのような、そんな表情だった。
目が合ったまま距離がだんだん近づいてきて、どんどん緊張している自分がいた。
今まで眺めることしか出来なかった彼女が今、目の前にいる。


「お前、俺のこと好きだろ」
「…え?」
「キスしてやるよ」


夢なのかと思った。
だがそう思っているのも束の間、彼女の顔はどんどん近づいてくるばかり。
ぎゅ、と目を閉じれば風やお互いの息の音が、より鮮明に聞こえた。


「なんてね、嘘」


目をそっと開くと、ぷっ、と笑った彼女はやはり、俺の知っているサンシャインガールだった。










end


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