love story

□コントロール不能
1ページ/1ページ


※高校生パロです














いらっしゃいませ、ありがとうございました。
その繰り返しで、延々とレジを打つ。

あーあ、早く終わんないかな。






「いらっしゃいませ」


笑顔は絶やさず、にっこり。
相手の目を見てね。
なんて店長に言われたけど、ぶっちゃけるとそんなにずっと笑って接客なんて出来るわけない。


「高校生?」


また、そうやって声をかけられる。
出された牛乳とパンのレジを打ちながら、内心めんどくさいと思いながらもそいつに返事をする。


「はい」
「そうなんだ、なんだか大人っぽく見えるから」
「ありがとうございます」


そいつはどうも。
袋にストローを入れて渡す。
そのときふと顔を上げるとちょうど、その人と目が合った。
その人は少し汚れた野球のユニフォームを着ていた。


「毎日バイトやってんの?」
「……え、あ、日曜日以外です」


何故だかつい見とれてしまい、返事をするのを忘れてしまった。
その人はくしゃりと笑って、さんきゅ、と言って店を出た。














「よっ」


レジに出された牛乳とパンを見て、顔を上げれば、また昨日の人がそこにはいた。
また少し汚れたユニフォームを着て。


「あっ」
「また会ったな」
「はい」
「……獄寺、?」


名前を呼ばれて、一瞬ドキリとした。
なんで知ってんの?
ばくばく、名前を呼ばれただけなのに心臓が高鳴った。


「え?な、なんで…」
「名札あるから。珍しい名字だなぁって思って」
「…なーんだ」
「え?」
「や、なんでもない!」


ちょっと何かを期待してしまった自分が馬鹿みたい。

それから少し話して、彼の名前を知った。
また俺の鼓動は高鳴った。












「いらっしゃいませ、…あ、山本!」
「よっ、獄寺」


彼はそれからというもの、毎日のようにやってきた。
名前は山本武。高校は隣のところで、タメ。野球部の四番バッターらしい(野球は詳しくないけれど、たぶん凄いんだと思う)。

薄汚れたユニフォームを着て、パンと牛乳を買う。
土の香りが、ほんのり漂った。


「牛乳、好きなのか?」
「んー、まあな」
「…今時牛乳好きな高校生なんて滅多にいねぇよ」
「ははっ、確かに!けどカルシウム取れるし、美味しいし」
「ふぅん」


山本は優しくて、容姿もいい。
女子からはさぞかしモテるのだろう。

けれど毎日のように会話を交わす度に、どんどん惹かれていく自分がいた。
嫌と思っても高鳴る鼓動。

その気持ちに気づいてから、もうお客さんとして接することはできなくなっていた。












休日の日曜日。
バイトも休みで、今日は京子と買い物に行く予定。


(久しぶりだから、楽しみ)


待ち合わせ場所に着いて、携帯を開く。
15分も早く集合場所に着いてしまったようだ。
暇つぶしにもなるだろうとちょうど、目の前にあったコンビニに立ち寄った。
飲み物でも買っておこうか。


「………あ」
「獄寺?」


まさか。
見慣れたエナメルの鞄、薄汚れたユニフォーム姿。

ドアが開いた瞬間、そんな見覚えのある姿があった。


「どっか出かけんのか?」
「ん、まあ…そっちは?」
「さっき部活終わったとこ」
「そっか…お疲れ様です」


いつも大変そうだなぁ。
ふと手元を見ればいつもと同じ、牛乳とパンが袋の中に入っていた。


「……?今日はこっちのコンビニ?」
「ああ、こっちのコンビニの方がちょうど学校から近いのな」
「え?じゃあ、なんで」


ふと頭の中に疑問が浮かぶ。
学校帰りならこっちに寄ればいいのに、どうしてわざわざ遠い俺のバイト先に来るんだろう。





「んー…一目惚れ、かな」




その言葉を理解するのに時間がかかって、ようやくわかったときにはもう、頭の中はパンク寸前になっていた。

そんなこと言われたら、次からどう接すればいいのかわからなくなっちゃうじゃん。

呆然と立ち尽くしたままの俺に、彼はそっと呟いた。






「じゃあ、また明日な」












end
ブラウザのバックでお戻りくださいませ。


[戻る]
[TOPへ]

[しおり]