love story
□Nobody Knows
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専属騎士山本×お姫様獄寺パロ
大丈夫な方のみどうぞ
窓の外はカラリと晴れた、雲ひとつない青色の空。
静まり返った部屋には、外から聞こえる鳥の鳴き声が響く。
机の上にたくさん積まれた書類から目を離し、窓へ視線を移す。
すると、ちょうど窓際に立っていた黒髪の青年と目が合った。
「今日はいい天気ですね」
「…そうだな」
鎧を身に纏い、腰には剣を差している俺の専属の騎士が、にっこりと微笑みかけて言う。
毎日の光景。部屋には、ふたりきり。
けれど、何か違和感がある。
何が違うかといえば、
「お前さ」
「姫様、こちらにもサインをお願いします」
目の前に、スッと出された書類。
言いたいことを遮られ、睨んでみたもののまた笑顔で返された。
何が変なのかといえば、敬語だ。
いつもいつも、こうやって、ふたりきりになるときは口調が解れる。
「どうして」
「はい?」
「どうして敬語なんて使ってんだよ」
…それは、貴女がお姫様だからです。
そう言う彼は、俺のことをからかっているのだろう。
城の中を行動するときは、この関係がバレてしまうといけないからこのような口調だが、ふたりきりのときはさすがにやめてほしい。
だって、恋人同士なのだから。
「敬語、やめろ」
「どうしてですか?」
ククッ、と笑う彼が憎らしい。
サインを書いていた腕を止めて、ペンを置いた。
姫に仕える騎士、姫に対して口調をほぐすことなど決して許されることではない。
けれど。
立ち上がり、俺よりもだいぶ背の高いコイツの口元にキスをした。
「…こういう関係だから」
そっと唇を離す。
自分からこうやって仕掛けるのは初めてだったから、恥ずかしさも少しだけあった。
けれど今は、いつもの彼が見たくて。
「…まさかお姫様から口付けしてくれるなんて、ちょっと想定外だったな」
ハハッ、と彼は笑うと、俺のおでこにそっと唇を落とした。
ああ、いつもの武に戻った。
その笑顔が、たまらなく好きで。
「――なあ?…隼人」
ふたりだけの、唯一の部屋。
こういうときぐらい、せめて自分だけの専属騎士を、独占したい。
唇がおでこから口元へ移ると同時に、ふたり以外は誰も知らない世界へ、そっと目を閉じた。
end