love story

□初恋プレリュード
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※獄山、そして山本が女の子のお話です。
大丈夫だよ!な方はどうぞスクロール



















「女のくせに野球やってるなんて、変なの」


目の前に突然現れた、銀髪で瞳が綺麗な碧色をしている青年に声をかけられた。
派手な格好で、すごく綺麗なひとだった。それが第一印象。
制服が同じだったから、こんな人学校にいたっけ、と考えてしまい素振りをしていた手を止めた。


「そうかな、野球好きだからやってるんだけど」
「他に好きなスポーツとかないのかよ?」
「んー。今は野球一筋かな」


スパッと言い切ると、お前って野球馬鹿だよなとクスクス笑われた。
野球馬鹿、と言われてもああ確かにそうだと納得してしまう。

今までも女で野球好きだなんて変なの。と何回も言われたことがあったけれど、別に気にもしなかった。
親父もやりたいことをやればいい。と受け止めてくれてキャッチボールを今まで何回もした。


「おい馬鹿」
「………」
「お前のことだよ、野球馬鹿」
「えっ、俺?馬鹿なんて、ひどい」
「どうせ馬鹿なんだろ?勉強もなんか、ロクに出来なそう」



それは、その……。
見事に的中していて、つい口ごもってしまう。
どうして勉強出来ないなんてわかったんだろう。俺そんなに頭悪そうに見えるのかな。

馬鹿とか勉強出来ないとか、酷い言葉ばかり言うくせに、なぜだかその銀髪の男の子を憎めなかった。


「キャッチボール、付き合ってやるよ」


ニコッと笑い、さっきとは全然違う無邪気な笑顔に一瞬、ドキッとした。
ありがとう、とボールを渡しキャッチボールが始まった。


「へえ、コントロールいいんだな」
「そりゃ、野球部だもん」
「あ、そうだった」


お互いにボールが行き来する中、またニコッと笑う、銀髪の少年。
ああ、駄目なんだって。笑顔は、反則。
その笑顔を見る度、やっぱり胸が高鳴ってしまう。どうして、俺、緊張してんのかな。


「いてっ」


ごん、という音と共に頭に鈍い痛みを感じた。
こんな頭にボールが当たったことなんて、今までなかった。野球部の恥だ。
じわじわと痛みが込み上げてきたので、思わずしゃがみこんでしまった。


「な、何やってんだよ!」
「…いってぇ〜」
「野球部のくせにだっせえな」


そんなこと言われても、あんたの笑顔が悪いんだし。
顔を上げれば、銀髪の少年が顔を覗くかのようにしゃがみこんで、大丈夫かと訊いてきた。


(まるで宝石みたい)


今までに見たことのないような、綺麗なエメラルドグリーンの瞳。
思わず吸い込まれそうになってしまう。


「綺麗…こんな色、初めて見た」
「え?」
「あ、その瞳。あんまり綺麗だったから」


日本人じゃ、ないのかな。いや、でも、日本語ペラペラだし。ハーフかクォーターってやつなのかもしれない。
サラサラの銀の髪だって、初めて見た。

…あ、そうだ、この碧の宝石は、瞳だった。
そう気付いたとき、視線がばっちり合っていて、顔がすごく近くて…。


「…ご、ごめん!」


顔に熱が集まって、何だか、変なの。
どうしていいかわからなくなって、とりあえず顔を背けて、少し離れた。


「何謝ってんだよ」
「いや、それはその…」
「変なの」


少年は腕時計を見ると、やばっ、と小さく呟きばつの悪そうな顔をした。
何か用事でもあるのだろうか。


「俺、行かなくちゃ。じゃ、またな」
「え?え、あ、うん…」


くるりと後ろを向いて歩き出す。
銀色の髪が、さらさら揺れていて、後ろ姿でさえも綺麗だと思った。


「キャッチボール、付き合ってくれてありがとな」
「…別に」


背中に向かって言えば、少しだけ振り向いてそう一言だけ言ってくれた。
キャップを取りぶんぶんと手を振ると、それは恥ずかしいのかすぐに正面を向いてしまった。
思わず顔が緩んでしまう。

…そういえば、名前聞いてなかったな。…まあいっか、学校のどこかで会えることだし。
どくんどくんとまだ高鳴っている胸を余所に、コロコロと転がっているボールを掴んでぎゅっと握りしめた。






***






「今日は皆さんに、転校生を紹介します」


教室に入るなりそう言った教師に、クラスがざわめく。
男の子と女の子どっちだと思う!?と前の席の子に訊かれて、女の子かなと適当に答えておいた。


「獄寺くん、入って」


獄寺、かあ。変わった名字。
くん、なのだから男の子なのだろう。
ガラガラ、と扉が開く。入ってきたのは綺麗な銀髪の男の子だった。クラスメートの女の子が、顔を赤くして黄色い声を上げ騒ぎ出した。

……て、いうか。
見覚えがある。この綺麗な銀髪と、碧色の瞳……。
ぼんやりと眺めていたら、




「あ」
「……あ」




あの宝石と目が合った。
胸が高鳴る。



このとき、初めて恋に墜ちた。


いや、この恋が始まっていたのはこのときじゃなくて、あのときの出会った瞬間からなのかもしれない。





…それから俺たちが付き合うのは、もう少し後の話。












end
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