BOOK1

□沖田
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『アナタ、何してる人?』
「人斬り。」
『ハァ?!』
「みたいなもん。」
『……そう』



同じだ。
俺も、攘夷浪士のアイツらも。
結局は、刀振り回して、ビビらせて、斬って。
己の理想という名の欲望の為に、ただその為だけに他に刃を向けるのだから。

俺は、近藤さんとは違う。
あの人みてえな、立派な志なんてモンはハナから持ち合わせてはいない。
ただ俺は、あの人達と一緒に馬鹿やりたくて、こんな位置に居る。
たまたま、この位置が正義とされる側だっただけだ。
俺は、あんな立派な男じゃない。


姉上だって、アイツばっかり見てた。
だけどそれは。
こんな俺とじゃ、解りきったことだった。
俺は、俺しか見てなくて、見ようともしてなくて。



『アナタ、』
「なんですかィ?」
『自分の事、見えてる?』


「……見てますぜィ。見えて、まさァ。
救えない程我儘な、エゴの塊でさァ」

『…』

「殺したい位、見飽きてまさァ。人の事を蔑んで、貶して、笑ってる。汚ねェ笑顔ぶら下げた顔でさァ。…なんで、なんでこんな奴が生きてんですかねィ」

『…』
「…」

『…アナタって』
「…なんでィ」


女は、俺を睨みつけた。



…なんで。
なんで俺がガン飛ばされなきゃいけねーんですかィ。
というよりもなんで今、
俺はこんな。

ただなんとなくふらりと入った居酒屋で素性も名前も知らねえ女にこんなことを話している?

…………ちっ。



『アナタって』


女の表情はふわりと崩れ、
色の良い唇がきゅ、と動き口角が上向いた。


『目が、悪いのね』
「……は?」


意味が、解らない。
そして、少しだけ不愉快だった。


『ふふ そのままの意味よ』

「生憎視力は抜群なんでさァ。
アンタのおでこのその前髪の下の出来かけのニキビも見えてますぜィ」

『あら、ホント!こんなところに』

「他人の視力に文句付ける暇があったら自分の肌荒れでも気にしてなせェ」



それじゃ俺はそろそろ、と言い立ち上がる。

…これ以上、この女と言葉を交わしたくない。
本能的に、そう感じた。
さっさと勘定を済ませて店を出たい、
この女から離れたい。
この女から、離れなければ



『アナタってもしかして手も悪いの?』
「……なんなんでィ」
『だって』




アナタの顔、涙で濡れてるもの。
アナタの手、震えてるもの。


本当に、鏡を見てる?
本当に、それは綺麗な鏡?


涙が出ているのだから、
ちゃんと拭かなきゃみっともないわ。


アナタの顔、ぐしゃぐしゃじゃないの。
初めてみたわ。そんな、ひどい顔。







はっ倒してやろう、と思った。




別に俺には、女には手をあげない、だなんて立派な信念は無い。

握りしめた手のひらに、
生ぬるい水滴が落ちた。




……なんなんだ この女



『アナタがそんなに淋しそうな顔をするから、私にも泣き虫がうつってしまったわ』


アナタって 最低ね、
酷い男だわ。最低。



『だって今朝はこんなところにニキビなんて無かったのよ。アナタ、知ってる?おでこに出来るニキビってね、』





想いニキビ、って言うのよ。
誰かに恋をすると出来る、ってよく言うんだけれど。







近所のコンビニのその(の、居酒屋)






(だからアナタ、鼻の真ん中に出来るかもしれないわね!)
(…鼻の真ん中…?どういう意味でィ)
(両想い、っていう意味らしいわ)
(……図々しい女)








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