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□黒蝶とお団子
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俺にとって、ななしさんは
光
世界
主
全て
なんだ。
黒蝶とお団子
『黒蝶ー』
主が我で遊ばれ(陸参照)、数日がたった
『お団子を食べに行こうか』
そう言って我を呼び出して、今、団子屋に来ている
『すいませーん!お団子2つ下さーい』
「有難うございます」
『ん?いんや。約束だったからね』
にへらと笑う主
その笑顔には[偽]だったことに胸がちくり、と痛んだが、もう主には心の底から笑うことが出来ない事を我は知っている
暫くして団子が運ばれてきた
桃、黄緑、白の三色団子だ
主は一口、ぱくりと口に入れると『美味しい!』と言う
それを見てから我も一口食べる
すると口の中に甘く、柔らかい感触が広がった
「本当に、美味しいですね」
『流石、京の団子は格別だな。いつか乱菊にでも買っていってやろう!』
「きっと喜ばれますね」
『だろうな。酒のつまみにされそうだ』
主は[ワラウ]
「…」
『?どうした?』
主が我の顔を覗き込んで来る
何時もは頭の上で高く、一つに縛っている髪を、おろし、風になびかせ
その大きな瞳で我―――俺を見つめる
その小さな体で、毎日虚と戦い
その華奢な腕で、毎日刀を振るい
その小さな肩を震わせながら泣く
俺は知ってる
ななしさんが夜、星を見ながら泣いているのを
一人、昔を思い出しながら、声を殺して涙してるのを
でも俺は隣に行ってその体を抱き締めてやれない
ななしさんもそれを望まない
あいつは人一倍、弱さを見せるのを嫌う
でも、涙を流すことは弱さなんかじゃない
だから
「もっと俺を頼ってくれ」
『へ?』
「俺じゃ、ななしさんの支えにはならないのか?」
『…』
「俺にとって、ななしさんが全てなんだ。あの地獄から俺を救ってくれて、俺を認めてくれて、俺が唯一[主]とするのは、お前だけだ。俺にはお前しかいないんだ。だからもっと俺を頼ってくれ、必要としてくれ、俺を使ってくれ…」
『黒蝶』
力強い声で呼ばれ、俺はゆっくりななしさんと向き合う
そっとななしさんの顔を見ると
「…っ!」
まるで聖母のように微笑むななしさん
久しぶりに見たななしさんの[エガオ]
無性に、泣きたくなった
『私にとって黒蝶は、私自身だ。
黒蝶なしでは生きていけないし、生きたくもない。
黒蝶だってそうなんだろう?』
なら、それだけじゃないか
その言葉をきいて、鳥肌がたった
ああ、やはり
「主には勝てませんね」
『ふふ、あたしに勝とうなんて十億年早い!』
「なら十億年たったら勝てるんですね?」
『揚げ足をとるなっ!』
「はは!すいません」
主がいて、我がいて。
そんな毎日が、いつまでも続きますように。
俺と主と、団子。
(いつまでも)(お側にいます)
090922