1stSS
□BirthDay-2011-
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泣きだしてしまった彼女にかける言葉が見つからず、罪悪感だけが胸に積もる
「わ、私なら待つのではなく迎えに行く方だ…」
ぐちゃぐちゃになった顔を上げる
涙に濡れた顔を見て胸が痛んだ
「君が姫なら、私は王子だ。私なら待たない…その、何故なら私は君を迎えに行くからだ…」
ベンチを立って言った言葉に隣で益田がツボに入ったらしく声を高くして笑っている
恥ずかしさは残るものの、傷つけてしまった心が少しでも晴れる様に力強く言いきった
「ほんと?」
服の袖で涙を拭きながら疑う様な目だけを向ける
「本当だ…」
まだ隣で笑い続ける男を靴の先で軽く蹴る
「おまえはいつまで笑ってるつもりだ!」
恥ずかしさから頬が紅潮するのがわかる
ベンチに座ったままでにっこりと笑う彼女に胸をなで下ろした
「約束だよ?」
小指を立てて手を突き出す
仕方がないとゆびきりを交わす
ベンチからひょいと降りるといつもの様に「またね」と手を振って去って行く
「まさか、零一が子どもに好かれるとはねえ。 あの子も相当な変わり者だな。」
彼女が過ぎ去った後の道に視線を向けながら言った言葉に「余計なお世話だ」とだけ返して、歩きだす
明日には冬休みも終わり学校が始まる
その間も彼女はあの公園で一人、誰かを待っているのだろうか…
振り返って先程まで座っていたベンチに目を向ける
自分がそこに座って益田を待っている間、彼女は必ず現れて、その隣に腰を下ろす
きっと待ち合わせをしていない日も彼女は毎日の様にそこに来ているのだろう
次に彼女に会ったのは、高校生になったばかりの頃だった
学校が始まってからも何度かあの公園には待ち合わせなどで行く事があったけれど、時間帯が違うのか彼女に会う事はなかった
益田も面白がって何度か行ってみたらしいけれど、会えなかったといたずらっぽく笑っている
受験が終わって、春になって、高校の入学式の帰りだった
またあの公園のベンチに座る姿があった
冬の日とは違い回りには同年代の小さな子が駆けまわっている
それでも彼女は一人でベンチに座って空を見ていた
隣に置かれた大きな鞄には今日もあの絵本が入っているのだろうか
「久しぶりだね。」
声をかけようか迷っている時に先に後方からきた益田が声をかける
「あ、よしとお兄ちゃんとれいいちお兄ちゃん」
ベンチから降りてトコトコと走る
短い手足をバタつかせる姿はペンギンの様で可愛らしい
公園の中で遊んでいた子ども達も高校生と小さな女の子との組み合わせが珍しいのか、立ち止まり視線を送る
「一人で何してんの?」
腰を屈めて目線を合して話しをする
この間会った時は怯えて隠れていたのに、子どもとは不思議なもので、今日は仲が良い友達と言った様に嬉しそうに話している
「お空見てたの。あしたは雨だなって」
彼女の指を指した空に目を向ける、今日はとてもいい天気で明日が雨とは思えない程だ
「あの雲ね、雨の雲なんだよ」
確かにその雲は巻積雲の一種でうろこ雲と呼ばれ、天気の崩れの象徴とされている
理科の教科書の内容を思い出して納得する
必ずしも雨が降るわけではないが、可能性としては十分にありえる
「その雲のね、ほらあれ…四葉のクローバーみたいでしょ?」
確かに小さな雲が群をなし、密集した所はクローバーの様に見えなくもなかった…
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