1stSS
□BirthDay-2011-
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いつもの待ち合わせ場所に、いつも通りお昼を少し過ぎた時間に、いつもの様に読みかけの本を読んでいた
その隣には小さな女の子が何が楽しいのか鼻歌を歌いながら座っている
あの雪の日から何日か経ち、益田との待ち合わせでこの公園で待っている度に彼女は隣に座る
何を話す訳でもなく、いつも隣に座っているだけで、妙に沈黙した空気の中鼻歌だけが聞こえてくる
言葉を交わしたのは初めてあったあの日だけで帰り際に「またねー」と残して帰って行くだけだ
真冬の寒い時期に公園内を駆け回る子どもの姿はない
彼女は一人何を思い自分の隣に座るのだろうか…
読みかけの本を閉じる
いつもの如く約束の時間を過ぎても益田の姿は見えない
いつの間にか彼女の鼻歌も止まっていた
「お兄ちゃんは王子さま、信じる?」
突然の質問に「え?」と疑問の声が漏れる
目をキラキラと輝かせて返事を待っている
「信じるもなにも…王子は実在する…」
質問の答えに不服そうに口をへの字に曲げる
「王子さまがいるかじゃなくて、お兄ちゃんは王子さまを信じて待つのか聞いてるの」
ぷんすかとまだ舌の回りきらない口調で彼女は怒っている
「これ、読んで!」
彼女が差し出したのは1冊の絵本だった
海外のものらしいそれは重みもありしっかりと両手で受け取る
表紙を広げると彼女は隣で声を出して読み始める
少しの恥ずかしさはあったが、真剣に文字を追う彼女の邪魔をするのは気が引けて膝の上で広げた絵本を、隣に座る彼女が読みやすい様に少し彼女の方へ傾ける
物語が終盤に行く事で彼女の質問の意味を理解する
自分がお姫さまであったとして、王子さまを信じて待てるか…
「澪はね、王子さま待つんだ」
足をぶらぶらと動かしてにこりと笑う
「澪…ちゃん…」
何度も会っているのに名前を聞くのは初めてだった
「れーいちお兄ちゃんはお姫さまみたいに待てる?」
入れ違いにくる益田が呼ぶ名前で覚えたらしい
質問に答えようと考える…片道千の夜を超える道のり…戻ってくるまでに4年以上…
現実的な数字ではない…
「私なら待たないだろうな…」
そう言いかけた所で後ろから重く圧し掛かって口を塞がれた
「初めまして、澪ちゃん」
相手は益田で、その手をすぐに払いのける
「俺の事は義人さんって読んでね」
自分を挟んで会話するが、肝心な彼女の方は怯えて私の影に隠れてしまう
そんな様子も気にせずに益田は話しを続ける
「零一は待つよ。絶対。」
「私は待てない。そもそも現実的ではないだろう?」
ポカっと後頭部を叩かれる
「何をする」
叩いた益田を睨みつければ顎で目線を遊動する
シャツに皺が寄るくらいに強く掴まれた腕
その腕を掴んだ本人は涙目になっている
「あ……」
現実的でなくとも、ここは「待てる」と答えるのが正解だったのだ…
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