1stSS
□クリスマスSS
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会場に着くと無意識に彼女の姿を探している…
この場所に彼女"東雲 澪"が来る事はもうないと解っていながら
それも仕方のない事だ
彼女は昨年、私の勤めるはばたき学園を無事に卒業したのだから
理事長が主催のこのパーティには基本的に学園の在校生しか招待されていない
眼鏡を持ち上げて窓の外を見る
ちらちらと真っ白な粒が舞っている
「雪か…」
何気なく呟いた言葉に回りにいた人々が窓へと視線を向けた
バルコニーへと続く巨大な窓を開けるとひんやりとした空気が暑くなりすぎた室内に入り込んできて気持ちがいい
ステージの方を向くと何やら催し物が始まっていた
そっと窓を閉め、バルコニーの柵へと体重を預ける
楽しそうな在校生の姿に受験生も今日、この日くらいは勉強の事も忘れて楽しんで居る様だ
去年はこのパーティの帰りに益田の店で彼女の為にピアノを引いた
今年はと言うと予定はない
例年の如く益田の店に寄るという選択肢もあるが…隣に東雲が居ないのがどうしても自分の中で引っかかっていた
はぁっと吐き出した溜息が白くなりやがて空に溶けていく
さすがに冷えて来たかと室内に戻ろうとした時に不意に門前に人影がある事に気付く
不審者なのか、遅刻した学生なのか…どちらにせよその人物が誰であるのか確認しなければならない
バルコニーから室内へ入るとステージが盛り上がっているらしく、より一層室内は熱気に包まれていた
生徒達の間を抜けて出入り口の方へと移動する
途中で自分の席によりコートを手にする
ドアを開けるとやはり寒くて手にしていたコートを羽織り門へと歩いて行く
薄暗い中にオレンジに光る街燈の下で同じ様に白い息を手袋越しに手に当てている
その人物が気配に気づいて門の外からこちらを見ると思考回路が止まった様に動けなくなった
コートや手袋…マフラーにニット帽…防寒対策は完璧だが…その肩には先程からチラついている雪が解けずに僅かに積もっている
「君は…何をしている」