1stSS
□ー特別な存在ー
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断られた事なんて一度もなかった
いつだって私からの贈り物は皆喜んで受け取ってくれたから
だから、それが私にとって当たり前になってしまっていた
‐特別な存在‐
そもそも、私はずっとあの人にとって特別なのだと思っていた
体育祭の時、怪我をした私をわざわざ手当してくれた
普通「保健の先生が来るまで待ってなさい」とか言われそうな所を、率先して「貸しなさい」って私の手から包帯を取って、あまり慣れていない手つきで巻いてくれた
それだけじゃなくて、課外授業の後に呼び出されて、夕焼けの綺麗な丘に連れて行ってくれた
私がストレスをため込みすぎてるって気づいてくれた
私だけに特別なのだと……
そう思ってしまった
確かに特別だった……
あの人…氷室先生の生徒で居れる内は誰だって彼の特別になれるのだ……
それに気づけた時には、すでに私の中で先生の存在が特別になってしまっていた…
私にとっての当たり前は氷室先生には通用しなくて…
バレンタイン……
誕生日……
喜んで欲しくて…私の気持ちに気づいて欲しくて…毎年渡しているけれど…
いつも困ったような顔をして受け取ってはくれない……
渡せなかった物が部屋の片隅に積まれていく
食べ物は自分で食べるのが悔しくて、弟に無理矢理押しつけたりもした…
味わった事の無い屈辱……でも…何も知らない時よりずっと良い…
どんなに断られても…それでも好きだと思える人だったから…
そんな人今まで居なかった……
だから出会えた事に意義があると感じた
氷室先生に出会えた事は私の人生に多大な影響を与えているのだ…
その影響というのは一番は学校生活に対する姿勢だろう…
正直、もともと勉強は苦手で…その苦手から逃げ続けた結果私の成績は下の上くらいだった
ボーダーラインギリギリだった私でも、授業をしっかりと聞いて、きちんとテスト勉強をすればある程度の成績になった
その時初めて先生が私をわざわざ呼びとめて褒めてくれた
頑張ったな、次も頑張れ
そんな内容の会話だった…誰にでも言うような…特別でもなんでもない会話…
それでも嬉しかった…
次はもっと頑張ろう……そしたらまた先生の瞳に私を移しこむことが出来る
眼鏡の奥に隠れた綺麗なダークグリーンの瞳…
先生は話す時、真っ直ぐに向き合ってくれる
私の瞳の中に先生が映り込んで、先生の瞳に私が映る…
ただそれだけ…それだけの為に今まで逃げ続けた勉強に向き合った
その頃、先生目当てに吹奏楽部に入部したばかりだったから両立が難しくて何度も挫けそうになった
それでも目の前で授業をする先生が…指揮をとる先生が好きって…ただそれだけが…私の糧になった
結果が出たのは先生を好きになってから1年後の7月、新学期初めてのテストの結果発表の時だ
張り出された順位表の下から見るのが癖付いてしまっていた
なかなか自分の名前を見つけ出す事が出来なくていつもの中盤の位置に来てもまだ自分の名前はなかった
「東雲 澪……」
いつもならとうに過ぎている中盤あたりを過ぎ去り上位と言われる所を見て行く
20位くらいから順に目線を上げて行く
自然と指が目線と共に上がってきていた
ピタッと指を止めた場所は自分でも信じられなかった
……1位……?
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