小説(原作沿い)

□黄泉の匂い
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ふっと匂った。

さくらが幼い頃から、知ってる匂いだった。

目の前の金髪の青年を、さくらは、見つめる。

今、いるところは、阪神共和国だと小狼に説明された。

一緒に、旅をしているひとたちがいるのだと。

旅の目的は、さくら姫の記憶の羽根なのだと。

(記憶の羽根…)

小狼の説明に、そうなのかとさくらはぼんやりと思うしかなかった。

記憶喪失なのだ、と言われても、なんだか実感もない。

なんの記憶の羽根なのか?

それすらも彼女にはわからなかった。

「オレは、セレス国の魔術師のファイ・D・フローライトですー」

小狼が席を外し、
よろしくね、サクラちゃん、と金髪の青年が自己紹介をする。

白いマシュマロは、モコナ、
黒髪の青年は黒鋼だと自己紹介を聞いた。

やはり、匂いがした。

さくらは顔をすこし強張せる。

どんな匂いか?と言われれば、さくらは上手く表現できない。

人が亡くなるときに、予兆めいた匂いがすることがある。

確実に死が間近に迫っている人限定で。

その死は、自殺、他殺を問わない。

匂いがする人には死が迫っている。

それに気づいたところで、
さくらにはなんの力もなかった。

助けても、別の要因で亡くなるのだ。

どんな行動をしても
死の運命を消し去ることはできなかった。

だから、誰にも相談したことはなかった。

怖かった。

恐ろしかったからだ。

自分が神官候補であること、
不思議な力をもっていることも関係しているのかもしれない。

(いま、この匂いがしてるのは)


魔術師には確実に死が迫っていることになる。

へらへらとした笑みを浮かべる魔術師に、さくらは手を伸ばした。

(このひとは)

(きっと優しいひとね)

証はなかったけれど、
直感だった。

「?サクラちゃん、どうしたの?」

ファイが心配そうに、さくらの手に触れる。

温かな手に触れられ、
さくらは一つの決心をした。

(助ける。このひとは絶対)

死の匂いをかぎとる能力は、なんのためにあるのか?は、さくら自身わからない。

死の運命は、いくらさくらが行動したところで変えられないのかもしれない。

でも、行動しないなんて選択肢はなかった。

「よろしくお願いします」

なんとか声をさくらは出す。

その時から、
死の匂いは、さくらにとって、
より近しいものとなったのだった。





→【桜都国に続く】
※国がとびますが、とばした国は本に収録時に加筆予定です。
次回、長めの予定です。
お付き合いくださると嬉しいです。
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