過去拍手再録場所
□拍手第1代目 『伝ワル想イ』(完結)
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『伝ワル想イ』
人通りの多い城下町。
威勢のいい商人の声、人々のざわめきで満ちている。
ファイと黒鋼は二人で買い物をしにきていた。
旅が終わり、日本国にきてから数ヶ月ほどしかたたない恋人は物珍しげにきょろきょろ見渡していた。
何かを見つけてその度についついと黒鋼の袖を引っ張るファイ。
「ね、黒たん。あの飾ってあるの…」
間近に黒鋼の顔が近づいたかと思うと口に柔らかいものがふれ、離れていった。それは瞬きする間の一瞬の出来事。
「誰かに見られたらどうするのー?」
不意打ちのようにされた口づけ。
こんなところで、と思うような時にされるからいつもファイは驚いてしまう。
ねぇ、とファイは目の前の忍者を見上げた。
「見せ付けとけばいいだろうが」
黒鋼の言葉に少し目を見開いた後、ファイはくすっと笑った。
「黒様、強引ー」
くすくす笑ってファイがからかうとぎゅっと黒鋼に抱きしめられる。
ファイの言動に翻弄されてるのは黒鋼の方だ。
旅をしていた頃と違いくるくるとよく変わるようになった恋人の表情。
―見せたくねぇな。
それが黒鋼の本音なのだが、伝える必要はねぇだろと結論づける。
言ってしまえば数日は主君、天照にまで伝わりからかいのネタにされるのは目に見えていた。
「…独占欲強すぎだよー…」
ぽつりと独り言のようにファイは小さく呟く。
さっきよりもぎゅっと強く抱きしめられて、離さないと言われてるようだった。
体全体で動作で、誰よりも好きだと言われてるかのような。
気持ちが心まで伝わって。
「黒さ…」
ファイが何かを言いかけると、不機嫌そうな声がした。
「…な時ぐらい黙っとけ」
くいっと顎を黒鋼によって上に向かせられた。
再び重なってさっきよりは少し深めの口付けを交わす。
「…っ…ん」
甘えるような吐息がファイから零れた。
顔が離れて二人の視線が交じる。
何度もしてきたことなのにその視線が交じる時は照れ臭い。
「今日の晩御飯、何にしよっか。お味噌汁とかどう?何入れたい?」
なんとはなしに二人で手をつなぎ往来を歩き出す。
「豆腐にわかめでいいんじゃねぇか」
「ほかの具は?」
そうだなと黒鋼は考え込んだ。
ぎゅぅと握られたままの手。
かけがえのない傍らの人。
一緒にいて、変わらない平凡な日常こそが何よりも愛しい。
―ずっと一緒にいれますように。
二人同じことを想い、願掛けのように手を更に強く握りしめたのだった。
end
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おまけが続きます。
もう少しお付き合いくださいませ。