■時事短編■

□十五夜の月の下で/9月
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「月にはうさぎがいるのよ。」



にっこりと笑って、目の前の女の子は言った。

頭の上で結ばれたリボンが風にそよいだ。


「いるわけないだろ。」



男の子が言う。
整った顔立ち。
漆黒の瞳が夜空の月を映した。

「いるよ!お餅を付いてるんだよ。」

ほら見て、と月を指差す女の子に、

「あれは影がそう見えるだけだよ。」

サスケが言うと、女の子は悲しそうに表情を歪めて、

「…うちはくんは信じてないの?」

「今時そんな迷信信じてる奴なんかいないよ。」

サスケの言葉に俯いてしまったその子。
間違った事は言っていないはずだが、何だか悪いことをした気になる。

「…本当に月にうさぎがいるんだったら…」

サスケが言うと、その子は顔を上げてじっとサスケを見つめた。

「もし、本当に月にうさぎがいるんだったら、雨が降った時はどうしてるんだよ?」





「綺麗な月ね。」



いつの間にか隣に来て空を見上げてサクラが言った。
彼女はそのまま、そこに腰を降ろす。


空に満月が輝いていた。



「晴れて良かったね。」

正直、今夜の天気などどうでも良かったけれど、サクラが嬉しそうに月を見上げていたから、
「そうだな。」

サスケは同意した。

「サスケくん、お月見団子食べる?」

「いらない。」

相変わらずのやり取りをして、サスケは先程思い返していた記憶の続きを辿る。



「おまえ月にうさぎがいるなんてもう信じてないよな?」

サスケの突然の言葉に、サクラは目をパチクリさせると、

「何の話?」
「ガキの頃の話。」

サクラはぷっと吹き出すと、

「やぁだ、サスケくんってば!月にうさぎなんているわけないじゃない!
そんなの子供の頃から知ってたわよ〜!」

サクラは笑った。

「誰かと間違えてるんじゃないの?」
子供の頃の記憶なんて曖昧なものだから、と笑った。



間違えてなんか、ない。

自分はあの時初めて、サクラを意識したのだから。

笑うサクラを見て、サスケは意味深に笑った。


「そうかもな。」



「もし、本当に月にうさぎがいるんだったら、雨が降った時はどうしてるんだよ?」



あの時、ちょっとした意地悪のつもりで投げた問い。


それに、幼いサクラは勝ち誇ったように笑うと、



「雨が降ったら月の裏に隠れるのよ。」



あの頃と同じように、二人並んで月を見上げていることがすごく不思議に思えた。

十五夜の日。

美しく輝く満月の下でのお話。




■十五夜の月の下で■
       ■FIN■

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