■時事短編■

□Rainy scar/6月
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雨の日は嫌い―――…





「ああ、もう…」
窓の外を見た私は思わず顔をしかめた。
「…また雨…」
大粒の雫が澱んだ空からとめどなく落ちてきている。
梅雨なのだから仕方ないと言えばそうなんだけど…

「…またサスケくんに会えない…。」

そもそも梅雨って季節は乙女の敵。
髪は広がってまとまらないし、濡れるし、濡れるから思うようなオシャレが出来ない。

そして…

何よりサスケくんに、会えない。
「…サスケくん…大丈夫かな…。」
窓の外を眺めて大好きな人の顔を思い浮かべる。
とても強い彼。
他人には弱い所を決して見せない彼。
その彼が恐れるものは、手強い敵でも夜の帳でもなく―…


『雨の日は…一人にさせてくれねーか…?』


彼の心を占める昏い闇。
今だ塞がらぬ深い傷痕。
決して風化する事のない記憶…
私はそこに入る事は赦されなくて。
彼の苦しみを一緒に分け合う事も、支えてあげる事すら叶わない。

「サスケくん…。」

もっと頼ってほしい。
もっと甘えてほしい。

喉まで出そうな私の欲は、いつだって言葉にならずにただ、呑み込むだけ。

「!」
窓の外にこの強い雨の中、傘もささずに歩く彼の姿を見つけた。
風邪引いちゃうよ…?

私は無意識の内に傘を手に部屋を飛び出した。


小走りで彼の背中を追い掛ける。いつもの背中じゃない。いつも真っ直ぐに伸ばされているサスケくんの背中がとても小さく見えた。

「…傘くらいささなきゃ駄目だよ…。」
駆け寄って手にしていた傘でサスケくんを濡らす雨を遮った。
「…サクラ…」
少し驚いたようにサスケくんが振り返る。
一人にしろと怒られるかもしれない。
けれど、このまま見てないフリは出来ないよ。

意外にもサスケくんは、
「…あぁ…。悪い…」
足を止め、呟いた。

「…見てたのか…?」
力のない声で聞かれて、私は胸が押し潰されそうになる。
「窓の外を見てたら、たまたまね…。」
私が言うと、
「…そうか…」
俯いたまま小さく彼が答えた。そのままサスケくんは私の肩に頭を預けると、
「…悪ィ…ちょっとだけ…」
また,力のない声で言った。
「…うん…」
うん。いいよ。

降りしきる雨の中、そのまましばらく二人でそうしていた。
時折揺れる彼の肩。雨に打たれたからじゃ、きっと、ない。

「サスケくん、帰ろう…?」
そっと抱き締めるとそれ以上の力で抱き締められた。
「…大丈夫だよ。」
私はあなたを一人にはしない。
私はどこにも行かない。
ずっとずっと、ここに―…あなたの傍にいるから。

「何か食べたい物ある?」

だから…

「サクラ…」
「ん?」

不安に思わないでいいよ。
あなたはもう孤独じゃないから。

「濡れてる。」
私の傘じゃさすがに二人で入るには小さすぎたみたいで、外側の肩が傘からはみ出していた。
「これくらい大丈夫だよ。」
全身ずぶ濡れで髪の毛や服から雫がしたたっている彼をもう雨に晒したくない。
痛く冷たい雨に。

「…風邪引くだろ。」
サスケくんはそれだけ言って私を引き寄せた。

それは私のセリフだよ。

雨から逃れても、ずぶ濡れのサスケくんに触れた部分がどっちにしても濡れるんだけど…
でもそこから伝わる彼の体温に何だかほっとした。

「まずはお風呂だね。」
明るく振る舞う私に、
「…あぁ…」
サスケくんは小さく笑った。


雨は嫌い。

これ以上、この人を苦しめないで。
これ以上、彼からぬくもりを奪わないで。

灰色の空を私は睨んだ。





■Rainy scar■
     ■Fin■

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