■時事短編■
□エイブルフール/4月
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「他に好きな人が出来ちゃったの…」
おそるおそるか細い声で告げられた突然の告白にサスケは思わず読んでいた書物から顔を上げた。
「何だって?」
聞こえていなかったわけではなかった。
ただ自身の聞き間違いであってほしいという気持ちとまさかあの彼女が?という疑いの気持ちからの問いかけだった。
サスケに問われ、居心地悪そうにしていたサクラは更に小さくなったようだった。
自分の服の端を握り締めていた彼女の手に更に力が込めらる。
「だからっ…
他に好きな人が出来ちゃったの…」
俯いたままこちらを見ようとしないサクラ。
サスケは小さくため息を吐くと、
「それで?おまえはどうしたいんだよ?」
精一杯の冷静さを自身の中でかき集めてサスケは言葉を吐いた。
サクラは少し逡巡して、
「…別れよう…?」
彼女の全身から「思い切って」という風な雰囲気とともに告げられた終焉の言葉。
「…わかった。」
それに何も言えずサスケは書物を閉じ立ち上がった。
立ち上がった所でふと壁に掛けられていたカレンダーが目が入る。
今日は…
「え?それだけ?」
サクラが少し慌てたように顔を上げた。
泣き虫の彼女の目には涙が滲んでいる。
「他に何かないの?何でとか相手がどんな人なのかとか…」
「そんなもん聞いても仕方ねぇだろ。
聞いても意味がねぇし。おまえの好きにしたらいい。」
サスケはそれだけ言うとサクラを残して部屋を出ようとする。
今度こそ完全に焦って追いかけて来たのはサクラ。
その気配を背中で感じながら、サスケは最後の言葉を投げる。
「頑張れよ。」
部屋のドアノブに手を掛けた所でサスケの動きが止まった。
「…何だよ。他に好きな奴出来たんだろ?」
背中にしがみついて来たサクラを見ずにサスケは静かに言った。
「…そんなわけないでしょ…」
振り向かずとも彼女が泣いているのと悔しそうにしているのが分かる。
「…だったらくだらねぇ嘘なんか付いてんなよ。」
少しだけ、呆れた口調で言ってようやく振り返る。案の定涙を零してはいなかったがやはり涙目で悔しそうにしているサクラの顔を正面から覗き込む。
「今日はエイプリルフールだもん…」
唇を尖らせて言う彼女に笑いが込み上げた。
「知ってる。」
笑いを堪えて彼女の顔に掛かった柔らかい髪を書き上げてやるとますます拗ねたように頬を膨らませた。
「びっくりさせてやろうと思ったのに…」
「百年早い。」
「最初っから分かってたの?」
サクラのその問いに、
「当たり前だろ。」
強がった。
「おまえの考えそうな事なんかお見通しなんだよ。」
本当の事は内緒。
俺を焦らせた罰だ。
「迫真の演技だったと思うんだけどなぁ…」
サスケに抱きつきながらしきりに首をかしげる彼女にサスケは苦笑い。
見事に騙されたよ。
カレンダーを見て今日がエイプリルフールだと気づいても自分を騙す為の嘘なのか、それとも真実なのか確信は持てなかった。
あっさり引いたのは一種の賭けだった。
腕にすっぽり収まった彼女の耳元に唇を寄せて、
「おまえ、俺を騙そうなんざいい度胸してるよ。」
覚悟しろよ、と囁けば耳まで赤くしてうろたえるサクラ。
二度と俺を騙して焦らせようという気が起きないように徹底的にいじめてやる。
サスケは安堵と共にほくそ笑む。
でないときっと、毎回引っかかるから。
■エイプリルフール■
■Fin■