■短篇■
□仲直りとクッキー
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困ったことになった…
顔の表面に、無理矢理いつも通りのポーカーフェイスを張り付けて平静を装ってみるが、サスケの背筋を冷たい汗が流れ落ちた。
困ったことになった…
その呟きはもう何度目か。
これまで多くの死線をくぐり抜けてきたけれど、今までこれ程逃げ出したいと思ったことはないだろう。
これ程までにプレッシャーを感じた事なんて、ない。
「…いい加減機嫌直せよ。」
沈黙に耐えきれずにそう口にしてみる。
内心、びくびくだ。
サスケの視線の先には、せっかくの整った顔をこれでもかと言わんばかりに険しくさせたサクラが座っている。
サスケの恋人だ。
自慢には決してならないが、今までサクラを泣かせた事なら数知れない。
付き合い出す前から数えれば、それこそ星の数。
けれど、思えばこんな事は今までに一度だってなかった。
サクラを怒らせるなんて…
拗ねたりふてくされたり、口論になった時に激しい口調になった事はあれど、こんな彼女は初めて見る。
サクラの全身から発せられる怒りのオーラがビシバシとサスケの元へ伝わってくる。
「どういうつもり?」
いつもよりも相当低い声音で、
いつもよりも相当硬質的な口調でサクラが言った。
座る彼女の前に置かれたテーブル。
その上にちょこんと置いてある箱。
更にその隣には星やハートの形に象られたキツネ色のクッキーが盛られた皿。
「…仕方ねぇだろ…」
サスケが言うと、殺気すら感じられる目で睨まれる。
「だからって普通、受け取る!?彼女以外の女の子から!プレゼントなんてっ!!!!」
バン!
サクラがテーブルを叩いた音が部屋に響く。
怪力を出されたら…とヒヤヒヤしていたが、それはないようだった。
おそらく、あまりの怒りにチャクラのコントロールが上手く制御出来ないのだろう。
「だから、何度も言ってるだろ。押し付けられたんだよ。」
ここで引いたら、男として立つ瀬がない。
仕方なかったんだ。
自分は悪くないと自身を励まし奮い立たせて、狼狽える心を必死に隠す。
「押し付け返したらいいじゃない!」
サクラの言葉に、なるほどと今更ながらに気付く。
けれど後悔してももう遅い。
現にこうして持って帰って来ていて、テーブルの上に乗っかっているのだ。
ちなみに中身は手作りらしいクッキー。
奇しくも、愛しい彼女が、クッキーを作って待っているねと言った日の出来事。
このタイミングは果たして偶然なのか。
このクッキーを作った少女には悪いが、もはや、サスケに取っては嫌がらせ以外の何物でもない。
間違いなくこの偶然がサクラの火に油となって降り注いだのだろう。
そうしてそれは火柱となり、今に至るわけだ。
「…私のクッキーが食べたくないならそう言ったらいいじゃない…」
俯き、急に涙声となったサクラに、
「何でそうなるんだよ?」
顔に張り付けていたサスケのポーカーフェイスが剥がれた。
結局、泣くのかよ。
こうなれば、もうサスケが折れるしかない。
「…悪かったよ…」
ぎこちない手つきで髪を撫でてやると、そのままサクラが抱きついてきた。
「…サスケくんが悪い…」
サスケの胸に顔を埋めたままサクラが言う。
涙を見られまいとする負けず嫌いな彼女を、そっと抱き締めると、
「おまえ以外の奴からはもう貰わねえから…」
そう囁いた。
さて、この貰ってしまったクッキーはどうするか。
あいにく、相手の顔など覚えていなければ、ロクに見てすらいない。
返すアテなど元よりないのだ。
とりあえずは、腕の中の彼女と仲直り。
■仲直りとクッキー■
■FIN■