■短篇■

□夜空の魚
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ねぇ、神様…


私が鳥だったなら…

小さくたっていい。
白くなんかなくていい。

この背中に、羽が生えていたなら。

私は、あなたの傍へ行けるのに…





暗い帳に覆われて真っ黒な空にただ、月だけが輝いていた。

窓から見上げた夜空。
ふと思いついて私は外へ出た。
星が見えなくて、けれど月はきらきらと輝いていて。

不思議とその月から目が離せなかった。

月を追いかけるようにして歩き続けた私は、気付けばこの湖のほとりにいた。


座り込んで、ぼんやりと水面を見つめた。
降り注ぐ優しい月明かりを受けて煌めく湖は静かな光を映す。

そしてそこに浮かび上がるのは、想い人の顔。


あなたに触れたくて無意識に手を伸ばす。

けれど触れた瞬間に水面は揺らいでその面影を消してしまう。
ただ、影だけが揺らいだ。


悲しくて
寂しくて
声が聞きたくて。

あなたに触れたくて。


幾筋もの雫が頬を伝って湖へと吸い込まれて行く。


あなたの影を映すこの湖へ、飛び込んだならあなたに会えるの?

ただ静かに揺らぐ水面。
消えゆくあなたを思うたびに、一人不安になるの。


悲しみに満ちた空から、涙の雨が落ちてあなたの面影が消える前に。


冷え切った風が吹き凍える冬が来て、あなたの面影が氷に閉ざされ見えなくなる前に…



もしも願いが叶うなら

夜空の魚になりたい。

虹が架かれば泳いであなたの傍に行けるのに…



ねぇ、神様…

鳥じゃなくていいの。
羽なんかいらない。


ただ、この夜空を泳ぐ夜の魚になりたいの。


青く透き通った空に、あの人へと続く虹を架けて。


あの人の元へ、泳いで行くから…



ねぇ、神様…



私は夜空の魚になりたい…





■夜空の魚■
       ■FIN■
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