■短篇■

□カミングアウト!
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決して隠そうとしてたわけじゃない。
本当は世界中の人に自慢したかった。
でも、今だに現実と信じられないほど夢のような出来事だったから。
もう少し、この幸せを一人でゆっくり噛み締めていたかったから。



「サスケくん彼女いるんだって!!」
だから食堂に駆け込んで来るなり誰かがそう言った時、サクラは思わず手にしていた箸を落とした。
「ウソでしょ。」
「デマに決まってるじゃない、あのサスケくんが誰かと付き合うなんて。」
ねぇ?といのに同意を求められてサクラは曖昧に返事をした。
きっと少し前の自分なら思い切りいのや他の子に同意していただろう。
そんなはずはない、と。

「でもさっきサスケくんに告白した子がそう言われたらしいわよ?」
「断る口実じゃないの?」
誰かの言葉に、
「サスケくんがそんなことするわけないじゃない。」
また違う誰かが否定する。
確かに、そんなつまらない嘘をつくような人じゃない。断るんなら回りくどいことはせず、はっきり言うタイプだ。
興味ないとか眼中にないとか余所を当たれとか…
相変わらず歯に衣着せぬストレートすぎるサスケの言動は今ももちろん健在だ。

「じゃ、本当なのー…?」
いのの言葉に皆しんとなる。

どうしよう…

言うべきか言わざるべきか…
しかし今更真実など言えそうな雰囲気ではなかった。
「でもサスケくんの彼女になったのに誰も名乗り出ないのも変よねー。」
普通なら、自慢したくてたまらないはずなのに、といの。
親友の言葉にますますサクラはいたたまれなくなる。
「その告白したって子、彼女が誰か聞かなかったの?」
「予想外の答えだったからびっくりしちゃってそれどけろじゃなかったらしいわよ。」

そりゃそうだ。

「じゃあいったいドコの誰なのよ?」
苛立つ周囲に、
「はい…」
手を挙げ、サクラが小さく答えた。
一斉に自分に集まる視線に居心地の悪さをひどく感じる。
「サスケくんの彼女て私…」
次に襲われるだろう怒号の嵐を予想して身を縮めたサクラを見事に裏切り、
「何の冗談よー?」
「騙されないって!」
周囲は爆笑。

「ほっ…ほんとだもん!嘘なんかじゃ…」
必死にサクラが反論するが誰も話を聞いてくれない。他の友人らはもちろん、いのですらお腹を抱えて涙まで浮かべて笑っている。
情けなくもちょっと傷ついてサクラが俯いたその時。

「サクラ。」
低い声に名前を呼ばれた。
聞き覚えのあるその声にサクラは思わず顔を上げる。いのたちもそちらへ顔を向けた。
少し離れた場所からこちらに歩み寄ってきたサスケは、
「今日はカカシから呼ばれてるから先に帰ってろ。」
自然に、いつものことのように言った。
「……う、うん…」
サスケの突然の登場に呆けたままサクラが返事をすると用は済んだとサスケは踵を返す。

「サスケくん!」
その背中を同じように呆けていたいのが慌てて呼び止めた。
顔だけをこちらに向けるサスケへ、
「サクラと付き合ってるってホントなのー…?」
上擦った声で訊ねた。
さすがにダイレクトな言葉で聞かれ否定するかと思いきや、

「付き合ってるよ。」
サスケは事もなげに言うと今度こそ去っていった。

まさに青天の霹靂ないのたちはよほどショックが大きかったのか今だに呆然としていたが、一方のサクラは頬が緩みっぱなし。
「じゃあ私は先に帰るね!」
ショックから立ち直れずにいる友人たちから逃げるようにしてサクラは食堂を出た。
廊下に出るとすでにサスケの姿はなく。

「付き合ってるよ、だって!!」
嬉し過ぎてどうにかなってしまいそう!

私はサスケくんの彼女なんだ。
今更ながらに実感する。
なんて幸せなんだろう。

軽やかな足取りでサクラは歩き出す。



今日はご馳走を用意して彼の帰りを待とう。





■カミングアウト!■
       ■Fin■

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