■短篇■

□His kind of…
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「サっ…サスケくんて、その…ど、どういう髪型の女の子がタイプ?」

耳まで真っ赤に染めて、淀みまくりの口調で聞かれた。
特にそんなものはなかったが、目の前で今にも湯気が出そうな少女の髪がふと、目に留まる。細く柔らかそうで艶やかな薄紅色。肩より少し上で切り揃えられていたそれは、風に揺られてさらさらと流れていた。

好みの髪型。

特にそんなものはなかったが、
「…長い髪…。」
そう答えた。

別に好みなんかじゃない。
ただ、目の前の少女には、そちらの方が似合うと思った。
漠然と、見てみたいと思ったから。

「…長い、髪…」
サスケの言葉を噛み締めるように、少女は繰り返す。
「もういいか?」
サスケが尋ねると、少女ははっとしたように、
「う、うん!ありがとう。」
そう言うと、そそくさと逃げるようにして去っていった。


今から何年も前のこと。

その時はまだ、名前も知らなかったが、サスケが記憶している、サクラとの初めての会話。





「…大丈夫か?」
サスケがそう声を掛けると、意外としっかりとした声音で、
「うん。大した傷じゃないし、大丈夫。」
サクラは笑った。
「…サスケくんの方こそ…」
大丈夫?と遠慮がちに問われる。
怪我の事を聞いているわけではないと、サスケは判っていた。
「…あぁ…。」
それだけ答えるとサスケは黙ってしまった。
「そっか…良かった…。
サクラが小さく笑う。
「………。」
サスケはサクラを正面から見れずに、ずっと自分の足元を見ていた。
「とりあえず、もう大丈夫だよね。ナルトはあの通りだし、サスケくんもまだ無理しない方がいいよ。見張りは私がやるから、もう少し休んで。」
少し先で横たわり、今だ目覚めずにいるナルトの側へサクラは歩き出す。


「……サクラ…。」
その小さな背中を見やりながら、サスケは彼女を呼び止めた。
「ん?」
振り返る彼女に、つい、先程まであったはずの美しく長い髪はない。
サクラの動きに合わせて僅かばかりの毛先が揺れるだけ。
先程、受けた奇襲。
いくら、昼間に戦ったダメージがあったとはいえ、奇襲を受けて尚、気を失っていた自分の不甲斐なさにサスケは憤りすら感じていた。ナルトに至ってはまだ目覚めるまでには回復していないらしい。

あれから…自分たちをが気を失ってからずっと、一人でこんな深く不気味な森の中で自分たちを守りながら周囲に気を配っていただろうサクラ。

どれほど心許なく、神経をすり減らしたことだろうか。
どれほど、不安で心細かっただっただろうか。

薄暗いこの森の中。
周囲は敵だらけの環境で。

「どうしたの?」
呼び止めたきり、黙ったままのサスケにサクラが首を傾げる。

気にしていない、はずがない。
「…悪かったな…。」
ようやくサスケが言った言葉にサクラはきょとんとした表情。
「どうしてサスケくんが謝るの?助けてもらったのは私の方だよ?」

そうじゃなくて。

「…髪…。」
すっかり短くなってしまったサクラの髪を見つめる。
サクラの体から切り離された毛先が足元で無造作に散らばっていた。
たまたま居合わせていた別チームのいのに整えてもらったことで、クナイで切り取った割に綺麗に揃ってはいたが、そういう問題ではないことくらい、サスケにも理解出来た。

「せっかく…長かったのに…。」
サスケは言った。
それに、サクラはあぁ、と頷き、
「別にこれくらい何ともないよ。髪の毛なんてまた伸ばせば良いだけだし、サスケくんとナルトを助けるためならそれくらい惜しくないもの。」
サクラは笑った。
「悪い…。」
幾度と零れる謝罪の言葉。
他に、掛ける言葉が見つからなかった。


「本当に大丈夫だよ。
ありがとう…。優しいね、サスケくん。」
微笑むサクラ。


ごめんな、一人にして。
俺がもう少し早く目覚めていれば…


俯くサスケの肩にサクラの手が置かれた。伝わるぬくもりに、何故かひどく安堵する。
「とにかく、今は休んで。
まだ試験は続くんだから。」
サクラにそう諭され、サスケはおとなしく横になった。

「…サクラ…。」
呼ぶと彼女がこちらを見る。

「……短いのも、似合ってる…。」
それだけ言うと、逃げるようにサスケは目を閉じた。
サクラはしばらく驚いたように目を見開いていたが、

「…ありがと…。」
頬を染め、嬉しそうに目を細めた。





■His kind of…■
       ■Fin■

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