■短篇■

□放課後
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「おまえ、代わりにやっといて。」

閑散とした図書室に響いた声に、サスケは読んでいた書物から顔を上げた。
声のした方に視線だけやると、数人の男子と一人の女子が向き合っていた。
「え、でも私、これからここの整理を頼まれてて…」
少女がおどおどしながら訴えるものの、
「じゃ、俺の代わりに教室掃除した後やれよ。」
そう返されてしまう。

突っぱねればいいのに。

サスケは他人事にそう思い、再び手元の書物に視線を戻した。

「えと…ここの整理の後は花壇の水やりと草取りも頼まれてるから…」

どれだけ頼まれてんだ。

書物を読みながらサスケは心の中で突っ込む。

「いーじゃんか。おまえどうせ暇なんだろ?俺、これからこいつらと遊ぶ約束してるから、そんな暇ないんだよ。」
身勝手な男子のセリフにサスケは眉を顰めた。
少女が呼びにくるさっきまで昼寝をしていたくせに。

いくら内気な少女でも腹を立てるだろうとのサスケの予想に反して、
「…わかった。」
了承した少女に思わず、サスケは顔を上げた。

おい。

「やり!じゃあ頼んだぜ。
あと、おまえいのに言いつけんじゃねーぞ!!」
最後まで身勝手なことを言って、彼らは立ち去る。
本来の静けさを取り戻した図書室にはサスケと少女だけが残された。

出口の扉を見つめ、少女が小さくため息を吐く。


「…おまえ…。」
見かねたサスケが声を掛けると、きゃ…と小さな悲鳴を上げ、少女の背中が大きく揺れた。
「うっ…うちはくん…。」
サスケの存在に気づいていなかったのか、はたまた声を掛けられるとは露にも思っていなかったのか。
振り向いたサクラの目には涙が滲んでいた。

ビビりすぎだろ。
そんなんで本当に忍になれんのかよ。

ため息を吐くサスケにサクラは数歩、後ずさる。
特にサクラに何かした覚えはないのだが、何故か自分はサクラに怖がられている。
自覚も意図もないが、自分はいつもサクラに威圧感を与えているらしい。

「何で引き受けんだよ。
当番はあいつだろ。」
サスケの言葉にサクラはまた、びくりと肩を震わせる。

…別に、怒ってるわけじゃねーんだけどな。

サスケはまた小さくため息を吐いた。

「ぁ…うん、そうだね…」
今にも泣き出しそうなサクラに、サスケはまるで自分がサクラを虐めているような気がしてくる。
「悪いのは向こうなんだから、はっきり言えばいいだろ。」
サクラをこれ以上、怖がらせないようにサスケは声音に気を付けながら言う。
その努力が実ったのか、サクラの体から少しだけ緊張が解れたらしい。
「えと…強く言われると…つい…。暇なのはホントだし…。まぁ、いっかぁーて…」
えへへ、と笑った。
「ばかか、おまえ。」
思わず言ってしまったサスケにサクラがまた、体を強ばらせた。
それに少し後悔しながら、
「だからって、当番を押し付ける理由にも、おまえがそれを引き受ける理由にもならないだろ。」
「ぅん……」
力なく頷き、俯いてしまうサクラ。

やばい。
泣かせそうだ。

サスケは少し焦った。

しかし、何というか…
サクラは人間の苛虐心をそそる。
先程の連中の気持ちが少しばかり判る、気がする…。

小さく舌打ちすると、やはりいちいちビクつくサクラ。

「…教室掃除して、ここの整理して、花壇の水やりと草取りだったな?」
サスケが言うと、サクラはこくこくと首を縦に振る。
「今日だけ手伝ってやる。明日からはちゃんと断れよ。」
サスケはそう言って図書室を出ようと歩き出す。
「えっ…?そんなっ…
い、いいよ、うちはくん…。私一人で出来るし…」
慌ててサクラが追いかけてくるが、サスケはサクラの言葉を無視してさっさと教室へ行き、掃除を始める。
言っても無駄と思ったのか、それともそれ以上何かを言う勇気がなかったのか。
サクラは黙ってサスケと掃除を始めたのだった。



翌日。
またもや、友人らから頼まれごとを引き受ける押しに弱い彼女を見て、サスケもまた、ため息を吐いた。





■放課後■
       ■Fin■

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