■短篇■

□彼の失敗・彼女の喜び
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失敗した。


「はい、
サスケくん、あーん。」
にこにこしながらサクラが言う。
口元に運ばれたスプーンには口を付けず、代わりに思い切り嫌な顔をして、
「…自分で食える。」
言ってやる。
けれど、俺のそんな態度にもちっともめげないサクラは、
「何言ってるの。安静にしてなくちゃ。」
真面目な顔で反論する。
言うだけ無駄なので、さっさとサクラの手からスプーンと器を取り上げ、自分でお粥を口に運んだ。
「もうっ、食べさせてあげるのにー。」
ふくれっ面をするサクラ。

冗談じゃない。

呼ぶんじゃなかった、と今更ながら、後悔した。

「熱、測った?」
サクラに問われ、お粥を食べながら無言で先程まで脇に挟んでいた体温計を渡す。
「…下がらないね。」
それを見て、サクラは困ったように言った。

39度5分。
昨日から熱が下がらない。
何でも、ウィルス性の風邪らしい。咳だとかの風邪の症状はなく、発熱だけだ。
けれども発熱だけとはいえ、体中が怠くて痛い。ちっとも動く気がしなくて、だから、こうしてサクラを呼んだのだが…。
妙にサクラは嬉しそうだ。

「ん。」
食事を作ってくれた礼も感想も言わず、空になった器を返す。
「はい。」
特に気にした風もなくサクラは受け取ると、台所へ行った。

そうして白湯を手に戻ってくる。
律儀な奴だ。
水でいいのに。

「えらく嬉しそうだな。」
薬を飲んで横になりながら、サクラに聞いてみた。
「え?そう?」
サクラは布団を掛けてくれながら、目を丸くする。

「だって、いいよね。こういうの。」
少し間をおいてサクラがぽつりと言った。
「何が?」

俺はちっとも良くねぇよ。

俺の不満に気付いたのか、
「サスケくんの事はもちろん心配だよ?」
サクラが言う。
「私が嬉しいのは、サスケくんが私を呼んでくれたことなの。」
笑顔でサクラは言った。
「…?」
サクラの言葉の意味がわからなくて、俺はどう答えたらいいものか迷った。
それすらもサクラはお見通しなのか、
「以前のサスケくんだったら、絶対私を呼んだりしなかったでしょ。」

あぁ、そういう事か。

「だから昨日、呼んでくれたことが嬉しかったの。」
照れくさそうに、幸せそうにサクラが笑う。
「どういう風の吹き回し?」
サクラに聞かれて今度は答えに窮する。
「仕方ねぇだろ…。」

顔が見たかったんだから。

一人で寝ていて、どうしようもない孤独に駆られた。
そうして思い返したサクラの笑顔。
傍にいてほしいと何故か、強く思ったのだ。

死んでも口にはしないが。

気恥ずかしくて俺はサクラと反対の方へ顔を向けた。
「…そっか…。たまたま、私を呼んだだけなんだ?」
沈んだ声音でそう言われ、不覚にも焦ってしまった。
「おい、何でそうなるんだよ。」
慌ててサクラの方へ顔を戻すと、そこにはニヤけ顔のサクラ。

「…っ…」

しまった。

そう思ったが、もう遅い。
「サスケくんてば、素直じゃないね。」
満面の笑みで言われ、熱のせいではなく、顔が熱くなる。

失敗した。

「もう、絶対呼ばねー。」
悔し紛れに俺が言うと、
「あははっ。ウソウソ。
そんなに拗ねないでよ。」
サクラに笑われ、余計に悔しくなった。
「拗ねてねぇよ。」
再度そっぽを向く俺に、
「また呼んでね。」
優しく、サクラが言った。
「ね?」
返事のない俺にもう一度聞いてくるので仕方なく、
「…おぅ…。」
そう返事を返すと、サクラが小さく笑った気配がした。

「他の人呼ばないでね?」
サクラが俺の髪に手を伸ばす。
その手の、なんと心地良いことか。

…やっぱり気にしてんじゃねーか。

こっそり悪態を付いて、
「…わかってるよ。」
答えた。

「ありがとう。」
笑顔でお礼を言われる。


失敗した。

病気になると人は弱気になるってのは本当だ。

もう、絶対呼ばねー。

心の中でそう呟く。

けれども、俺が眠るまで頭を撫でてくれるサクラに、それでも結局はまたサクラを呼んでしまうのだろうと、俺はぼんやり考えた。


たまにはこういうのもいいかもしれない、と。





■彼の失敗・彼女の喜び■
       ■Fin■

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