*tennis

□*束縛。
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―――今、この状況の中で、一体どうしろというのか。

「…はっ、さすが俺様だぜ」

鼻を高くして、自分自身に陶酔する跡部を余所に、今なぜに自分はこんなはだけた格好で椅子に座り、且つそれに紐で頑丈に逃げられないように括り付けられているのだろう。
いつもなら立場は逆な筈で、俺が跡部を組み敷いて行為を始めていくのだが、今日に限って、そう何を思ったのか逆な立場にある。

(…これが学校やなくて良かったことだけが救いやな…)

顔には出さず、自己陶酔を続ける跡部を見つめながらそんなことを考える。
もし顔に出していたならば、今頃跡部の目は鋭くこちらに向けられ、胸ぐらを掴まれながら、何だよ、と言われそうな気がする。
否―…言われそうな、ではない。
確実にどんな状況であっても、自分の言いたいことを言ってのけるのが、跡部景吾という人間だった。
その性格が、反感を買うことを頭の良い彼なら分かっていると思うが、言わなければどうにもならない性分らしい。
彼らしい、と言えば彼らしいけれど。

「…おい、忍足」

「…何やねん、」

「気分はどうだ、最高だろ?」

漸く自己陶酔が終わったのか、やっとこちらに意識を向け、名を呼ぶと口端をつり上げながら俺の方に近寄ってくる。
どうやら、この状況が楽しくて仕方ないらしい、そんな表情。
いつもは不本意にも組み敷かれる立場だから、こういう状態が彼にとって今一番良い音で脳内にアドレナリンが放出されていることだろう。
一方の俺はと言うと、今日の跡部の表情からして、本当に犯されてしまうのではないのか、と少しずつ焦り始めていた。
しかし、今この焦りを彼に見せれば、彼の思うツボだということも分かり切っている。
隙を見て、立場逆転と行こうではないか。
プライドの高い跡部のことだ、何か挑発でもすればきっと、そうきっと、堕ちてくる。
そう思っていた…この時までは。

「…跡部、楽しいか?」

「嗚呼、とてもな。今日はかなり気分が良いぜ…」

まぁ、せやろな…と軽くため息をつこうとした矢先―先程胸ぐらを掴まれた力よりも勝って、急にキスを施してきた。

(…あの跡部が…まぁ、今日はかなり気分えぇみたいやし、ノったフリでもしとこうやないか…)

そして一気に立場を引っ繰り返す。
その先にある彼の抵抗や罵倒なんて一切受け付けはしないし、苦にもならない。
あるとすれば、彼の感情のみ、だ。
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