*tennis

□七夕。
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今日は7月7日。世間では、この日を七夕といい、織姫と彦星が年に一度逢えるという話があるらしい。

そして例のごとく、学校行事だか何だか知らないが、玄関に笹が置いてあるから願い事を書きたい奴は書いて括っとくように、と言われ、それに渋々付き合うことになってしまった。
相変わらず隣の席で部活仲間でもある芥川慈郎は夢の住人で、絶対参加することはないだろうし、もう一人クラスも部活も一緒で何事にも真剣で且つ努力家な宍戸は後輩のクラスに行ってくる、と言ったっきり全然戻ってくる気配は見当たらない。
これでは、この七夕という行事について誰に相談すればいいのか宛てを彷徨っていたところ、クラスの外からにこやかに胡散臭さを醸し出した、眼鏡の奥で何を考えているのか分からない、というよりは、それを悟らせない、唯一この学園内で関西弁を扱う男が自分の名前を呼び、手をひらひらとさせている。
いつもなら無断で教室にも自分の心の中にも土足で入り込んでくるというのに、何を遠慮してか今日はどちらも入り込んでくることはなかった。

「ンだよ、いつも好き勝手してくる癖に今日は随分とおとなしいじゃねぇか」

席を立って、自分から足を運んでやれば、そぉか?と笑みを見せながら惚けてきた。
相変わらず、なポーカーフェイスにここにいる奴らは見事に騙されるだろう。しかし、眼力に長けてる自分にとって、こんなものは簡単に違うと見破れる。
なぜだか急に、どうしたんだ、と彼に問いたくなってしまい、口を開こうとした瞬間、それが分かったのか彼は堪忍してや、と自分の唇に人差し指を突き付けて、シーというジェスチャーを取った。

「…ここじゃ何やから、屋上行こうや。…な?」

いつもならここで何か言葉を発するというのに、今日は彼の纏う雰囲気と表情に充てられてか、何も言うことはできずに、彼に導かれるままついていったのだった。
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