*tennis

□*肌から肌へ。
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ぽちゃん、と上から下へと重力に従って降下する雫を見て、何故人と人は行為でしか一体化になることができないのだろう、と考えた。もう彼此30分はこの場所にいて膝を抱え込んで座っている。自分はこれでも男で、こんなことを考える、なんて柄でもないのに考えてしまうのは、やはり相手が相手だからか―と、そこへいきなりがらり、と扉を開ける音が響いて、ばっ、とその相手を見上げれば、彼はにやり、と笑みを作ってそこへ足を踏み入れ、扉を後ろ手でがちゃん、と閉めた。

「遅い思たら、まだ浸かってたんか…どんだけ長風呂好きやねん」

閉めた途端に、すっ、と床のタイルにしゃがみ込み、はぁ、と目の前で息を吐かれた。

「…別に、そんなんじゃねぇよ」

「じゃあ、こんなに遅いのは何なん?教えてぇや…」

「…っ!!」

風呂の中は狭いため、情事のときに使う低い声はよく響き、耳に甘い余韻を残していく。
狡い、と思った。その声が一番好きなこと分かっていて、弱いこと知っていて言ってくるものだから、彼は質が悪すぎる。情事や自分が何か言わなければならないときは必ずと言っていいほど、低い声を使い、自分を窮地に追い込ませる。思い返せば、それで勝ったことなど一つもなかったのではないか、と思うぐらいに、彼には頭があがらない。

「………」

「…言わんと…ナニするか分からんで?」

彼の手が浴槽に侵入し、びくり、と身体が震えた。顔も同様恐怖と不安が混合されたものになっていることだろう。その手が移動する度何か本当にされるのではないか、と目が勝手にそれを追い続ける。
分かっている。言えば彼は何も行動には移してこない。そんな人なのだ、彼は。伊達に数年の付き合いをしていないからこそ、彼の特徴が脳に浮かんで微かに安心感を与えてくれる。
―――だったら。

「…か、考えてたんだよっ…」

ぶくぶく、と鼻の下まで湯に浸かり、恥ずかしさの所為か長時間ココに座り浸かっている所為かは分からないが顔を赤らめてそう呟く。顔全体湯に浸かっている足元を見ているがために彼の表情は伺えはしないが、黙っているということは単に自分が話し出すのを待っているか驚いて声も出ない、のどちらかだろう。
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