*tennis

□*夢幻―ゆめまぼろし―
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歩を進ませて、ゆっくりと手を伸ばす。何かを、手に入れるかのごとく、ゆっくりと伸ばしてかざして。

掴めたかと思いきやそれはすぐに消え、急に現実へと引き戻される。その瞬間、いやに汗をかく。現実にそんなことが起こったらどうしようか、と自分の余裕なさの思いが自分を苦しめた。


ある朝、目を覚まして隣にいるであろう人物に目をやる。すぅすぅと静かに安心しきった顔があって思わず胸を撫で下ろした。そんな彼に早く目を覚まして自分を罵って強いその目で自分を見て、と欲望は尽きることなかったが、このまま静かに寝かせてあげることにした。
昨日今日と何時間もの激しい行為。彼は必死にいつものごとく抵抗して反抗してその姿がどれほど自分を狂わせたかなんて覚えていない。覚えているのは身体中に鬱血の花びらを散らし、これでもか、と思うほどつけてやったこと、抜かずにそのまま律動を繰り返したこと、達しても達しても彼が意識を失わないようにと何度も何度も前後を抉り快楽を与え続けたこと―嗚呼、そんな自分今まで見たことがない。これが本性なのか。それに唖然とした。
バカみたいに執着する自分が何とも滑稽で、そのまま彼に食われて一体化もいいじゃない、と冷静に思う自分がいることにも酷く可笑しくてなのに笑いさえ起きなかった。
―――だけれど。


「………ん、」

隣で眠る住人が甘い声を出してみじろぐ。彼が着ているパジャマから覗く白い滑らかな肌に見えるは、鬱血の花びら。何輪も咲いているからだろうか、余計に艶めかしく自分の欲をまた再熱させた。

―――触れたい………。

ごくっ、と欲を飲み込んで喉仏が上下する。欲のままに彼の滑らかな白い肌へと手を伸ばすと、ぴくんっ、と彼が反応を返してきた。意識がなくとも、行為を始めようと考えている手に、彼はどのように乱れるのか―少しだけ試したい衝動に駆られた。卑怯だと言われてもいい、罵られてもいい。彼が、いつまでも隣にいてくれるのであれば。
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