文章

□ミルクチョコレート
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[別におまえの為に作った物ではないわ]

[余ったのよ]

[本命はアリスなのだから調子に乗らないで]


そう言い,箱を渡されてから五日

中身はまだ食べ切れずに私室の机の上にある

私にとっては甘すぎる

ミルクチョコレート


[陛下]

[なによ,]

[私がこのような物を頂いてよろしいのですか?]

[あ,余ったから仕方がないの,在庫処分よ]

[…はぁ,そうでしたか]

ぷっくり丸みをおびた,小さくころころとしたハート型のそれは陛下にしては見事な出来栄えで,赤い箱の中でわずかな光沢を放ちながら,ピンクと金のリボンで綺麗にラッピングされていた。

[貴方みたいにいつもお料理ばかり作っている人のお口に合うかどうかなんてわからないけど,不味かったら捨ててくれて構わないわ。]

もともといらないものなんだから,と付け加えてから陛下はそそくさとその場を去ってしまわれたが
私は呆然と立ち尽くしたままだった。


あれから五日

たった五日だが

なんだかどっと疲れてしまった気がした。

赤い箱は相変わらず甘い香りを漂わせている。

ほどかれたリボンが床に落ちてしまっていた。

私は静かにリボンを拾いあげた。


このチョコもリボンも全て,陛下が選び,作り,施したのだろうか


陛下はどんな気持ちでこれを作ったのだろうか,

誰を想って作ったのだろうか,

少しは


少しは私の事も気にして下さったのだろうか?


(……,陛下は誰にでもツンデレですから,逆に真意が掴めなくて困ります…。)

ここ五日はこんな事ばかりが頭の中をぐるぐるぐるぐる駆け巡っていた。

[…愚問,ですね]


果てのない自問自答に半ばうんざりしながら,いつのまにか伸びていた腕は箱の中の茶色のそれをひとつつまみ
くちにふくんだ。



甘くて
喉の奥がただれるように熱い



甘い


甘い



そのとろけるような,焼けるような甘さの中にも,どことなく気品のある味が(あぁ,これはラム酒なのだろう,)入っていた。



まるで陛下のような,


そんな甘さと気品を感じて



私の頭はまたもや,果てのない自問自答と彼女のことばかりがあふれだしていた。



嗚呼,この想いが届く事などないと分かっているはずなのに…,

期待は募るばかりで

ついには妄想までしてしまう始末


どうしようもないやるせなさに目をとじても,暗闇にうつるのは彼女の髪,静寂に響くのは彼女の声,彼女の瞳,彼女の唇,彼女の指…彼女ばかりで生め尽くされてしまう。


私はこの想いをどうすればいい?


(とりあえずはお返しをするべきなのだろうか…?)




…,まぶたの奥の陛下は
こちらを見て微笑んでいた。




END

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