文章

□キモチ
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[……なんのようですか]

[…オヤ?]

背後にいる人物に問い掛けると,チリン,と鈴をひとつならして私の隣り側に来た。

[つまらないねー,トカゲは せっかくカクレンボしてたのに]

[…バレバレなのは隠れているうちには入りませんが]

気にせず歩こうとしたら,そいつは目の前に立ちはだかった。

[隠れんぼなら他の人とやればいいでしょう… 陛下なら必死で探して下さいますよ]

[ヤだよ。首狂いはスグ怒るからね,面倒なコトはイヤなのさ]

[はぁ… 私が面倒なのですが…]

[トカゲのくせに… しっぽ食べちゃうよ?]

[あいにく,しっぽはありませんので…]

[そうかい,それならそのウットウシイ舌でも噛みちぎってあげようか]

にんまり笑顔が私を少し見上げて言う。
トカゲの私より小さいくせに良く言うな,と思いながらも[それは困ります]と応えると,[それならアソボウ]と言われてしまった。

[仕方ありませんね…]

私は猫を連れて自分の部屋に戻る事にした。
しかし殺風景な部屋には遊ぶ物など何もないし,何よりいつも本ばかり読んでいた私はこれといった“遊び”をしたことがないのだ。

そんな事を考えながらガチャリ とドアを開けると,チェシャ猫が素早くソファに飛び込んで,2人分のソファを独り占めした。

はあぁ…

ため息が出る。
どうして私が猫の世話など見なければいけないんだ…
ここなら城も近いのだから陛下をからかいに行けばよいものをどうしてまた私なんかに……

とぶつぶつと考えていたら[ねー トカゲー]とチェシャ猫に呼ばれた。

あたかも暇そうな彼はダランと腕をソファの上から垂らし
[ノドかわいたー]だとか[サミシイー]だとか言っている。

どうやら本当に遊びたいようだ。

本を読もうと思っていたのに,とわざとらしくため息をついてみても,猫はまったく気にせず文句ばかりつけてくる。

あああもう!

[そんなに言うのでしたら遊んで差し上げましょう!!!]

早く終わらせて早く帰らせよう!

[……………さぁ…猫…,何をして遊びますか?]

[ウウン,そうだなぁ]

猫はあたりを見回すが,本や書類しかない殺風景な私の部屋には玩具などあるはずもなく(この年で玩具など使うのかが疑問だが)つまらなさそうな顔で私を見て[オナカガスイタ]と言い出した。
[猫は腹が減らないのではないのですか?]

[減るよ。アリスがこの前くれた,チョコとか言うヤツはオイシかったよ。ビルは作れるのかい?]

[えぇ,作れますよ。(といっても溶かすだけですが)食べますか?]

[ウン]

…というわけでチョコを作る事になった。

猫はその間にいらない書類に絵を描いているそうだ。

猫が絵など描けるのだろうか,とぼんやり考えながら作っていたら,いつも陛下に出す時の癖で,ラム酒を入れてしまった。
陛下は(子供のくせに大人ぶって)入れないと怒るのだが,チェシャ猫は分からない。

とりあえず,ラム酒を入れてないものを作っておこうと思ったが,肝心のチョコが無いため作れなかった。

まぁいいか,と猫のところへもって行くと,下手くそな絵を差し出してきて,[コレがトカゲ]と,口から長い棒(?)が出ている人らしき物を指さして,どこか自慢気に言った。

[はぁ… そうですか。私の口からその様な棒は出ておりませんが…。 さぁ猫,お茶にしましょう。チョコには少しラム酒が入っていますので,ひとつ食べてみて駄目でしたら残して頂いて構いませんの[イタダキマース]

言い終わる前に パクリ,とチョコを食べると,モゴモゴと[ウン,オイシイね]
と言った。

[そうですか,それはよかった。 ラム酒は平気ですか?]

心配だった事を訪ねると,いつもと変わらないにんまり顔で,[平気だよ]と返ってきたので少し安心した。

―その矢先…。

パタリ………

[は…?]

目の前の男が机に突っ伏した。

[ビルー なんだかキモチイね]

まさか…

[猫,貴方… ,ちょ…っ]

[ビルの手ひんやりキモチイー]

[あああやっぱり… 酔いましたか… そんなにお酒弱いならやめておけばよいものをああもう…]

[ビルー ねるー だっこー]

[はいはいベッドですか,ああもぅわっ ちょっと…っ猫! 止めて下さいよ,めっ! ちょっ…]

引きずって行こうと思っていたのに,猫が首にすがりついてくるので,お姫様だっこしかできない。

仕方なくそのまま寝室に連れて行って寝かせてやると,掴まっていた首ごと引っ張られて,2人一緒にボスッとベッドに倒れこんだ。

[一緒に寝よーよビル]

[いえ,私は読書でもしようかと思[たまにはイイヨネー?]

[…はぁ?]

[さぁさぁ,お昼寝しよう]

ぎゅうぅ,としがみつかれて逃げようにも逃げられなくなってしまい,はあぁ,とため息をつきながら仕方なく応じる事にした。




あぁ,貴方は私が貴方をどう思っているのか知らないからこそ,こんな大胆な事ができるのだろう。
私がどれだけ想っても手に入らないくせに,いつまでも私の心を蝕んでいく,貴方はなんて罪な存在なのだろう。



余裕な素振りのビルを見て,チェシャ猫は考える。

あぁ,君は僕が君をどう思っているのか知らないからこそ,こんな大胆な事をされても眉ひとつ動かさずいられるのだろう。
僕がどれだけ甘えても気付いてくれないくせに,いつも独りにはさせないその優しさに,僕の頭はおかしくなりそうなのに,平然としている君はなんて罪な存在なのだろう。


トカゲも猫も
貴方と,君といっしょに………



(ああ,もういっそのこと,二人で墜ちてしまえたらいいのに…)



狭い狭いベッドの上には,速く脈うつ心臓二つ


END
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