文章
□*--音--*
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午後五時五十三分。
その男はテレビを見ていた。
全身を灰色で覆い,三日月型に裂けた口はにんまりわらっている。
[ただいまぁー]
玄関のほうから少女の声がした。
するとしばらくたってから,トントントン,と階段を上ってくる音がする。
ガチャ…
[チェシャ猫,ただいまっ!!]
灰色の男に話し掛ける少女。
[おかえり,アリス。ガッコウは楽しかったかい?]
それに応える灰色の男―チェシャ猫は,いつもに増してにんまり度が3割増(当社比)であった。
[……?どうしたのチェシャね…アレ?テレビなんか見てたんだ,なにか面白い番組あったの?]
アリスは片手にかけていたサブバックを机の横にボスッと置いた。
[面白かったよ。]
またもやチェシャ猫は3割増のにんまり笑顔で応える。
しかし疲れて帰ってきたアリスは,ベットの上に座って適当に[そっか]と反応するだけで,それに気付きはしなかった。
[…アリス。]
[ん? なぁにチェシャ猫。…―ぅわっ]
アリスの小さな悲鳴と同時に,ドサ… とゆう音。
[チェシャ猫!? なななななに!? なにするの!?]
アリスは掴まれた両腕を動かそうともがいたが,チェシャ猫の力にはかなわなかった。
押し倒されたのだ。
[大丈夫,怖くないし痛くないよ。]
チェシャ猫は優しく囁く。
[痛く!? ぇ…ちょ,なにするの!?(汗]
アリスは抵抗する。
チェシャ猫の歯は,最早5割増になっている三日月型の口の中でギラリと怪しく光っていた。
そんな様子を見ていると(食べる…のかな…?)とゆう考えが頭をよぎり,なんだかいつもよりチェシャ猫が怖く見えた。
[アリス,一瞬で終わるから大丈夫だよ。]
[一瞬!?]
ふと,女王様の顔が浮かび上がる。(…たしか…女王様も同じようなことを言って私を殺そうと…………殺………)
[いや !!!いやだよチェシャ猫!!!絶対いや!!!]
アリスは必死にもがいた。
すると…
[……そう。]
パッとアリスの腕からチェシャ猫の大きな手が離れた。
[え?]
アリスは驚いてチェシャ猫を見る。
その顔は,少し寂しそうだった。
[おなか…すいたの?私じゃなくて,ご飯を食べ―]
[アリス。]
突然話しが中断された。
そしてそこから,
[君は僕のことがキライなのかい?]
と続いた。