文章

□*--音--*
1ページ/6ページ

午後五時五十三分。

その男はテレビを見ていた。
全身を灰色で覆い,三日月型に裂けた口はにんまりわらっている。

[ただいまぁー]

玄関のほうから少女の声がした。
するとしばらくたってから,トントントン,と階段を上ってくる音がする。
ガチャ…

[チェシャ猫,ただいまっ!!]

灰色の男に話し掛ける少女。

[おかえり,アリス。ガッコウは楽しかったかい?]

それに応える灰色の男―チェシャ猫は,いつもに増してにんまり度が3割増(当社比)であった。

[……?どうしたのチェシャね…アレ?テレビなんか見てたんだ,なにか面白い番組あったの?]

アリスは片手にかけていたサブバックを机の横にボスッと置いた。

[面白かったよ。]

またもやチェシャ猫は3割増のにんまり笑顔で応える。
しかし疲れて帰ってきたアリスは,ベットの上に座って適当に[そっか]と反応するだけで,それに気付きはしなかった。

[…アリス。]

[ん? なぁにチェシャ猫。…―ぅわっ]

アリスの小さな悲鳴と同時に,ドサ… とゆう音。

[チェシャ猫!? なななななに!? なにするの!?]

アリスは掴まれた両腕を動かそうともがいたが,チェシャ猫の力にはかなわなかった。
押し倒されたのだ。

[大丈夫,怖くないし痛くないよ。]

チェシャ猫は優しく囁く。

[痛く!? ぇ…ちょ,なにするの!?(汗]

アリスは抵抗する。
チェシャ猫の歯は,最早5割増になっている三日月型の口の中でギラリと怪しく光っていた。
そんな様子を見ていると(食べる…のかな…?)とゆう考えが頭をよぎり,なんだかいつもよりチェシャ猫が怖く見えた。

[アリス,一瞬で終わるから大丈夫だよ。]

[一瞬!?]

ふと,女王様の顔が浮かび上がる。(…たしか…女王様も同じようなことを言って私を殺そうと…………殺………)

[いや !!!いやだよチェシャ猫!!!絶対いや!!!]

アリスは必死にもがいた。
すると…


[……そう。]

パッとアリスの腕からチェシャ猫の大きな手が離れた。
[え?]

アリスは驚いてチェシャ猫を見る。
その顔は,少し寂しそうだった。

[おなか…すいたの?私じゃなくて,ご飯を食べ―]

[アリス。]

突然話しが中断された。
そしてそこから,

[君は僕のことがキライなのかい?]

と続いた。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ