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□Cherry Kiss
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熟れて、真っ赤に色づく、小さな粒。

甘酸っぱい、その実を口にする幸せよ。


その果実を摘むのは、俺か否か…。



- Cherry Kiss -


[side YOU]


「おじさん、」


ソファーに腰掛けている俺の元に、
可愛いミィが、近づいてくる。

手を取り、俺の足の間に引き寄せると
フローリングの上に、立ち膝になって、

下から顔を覗き込む。



『どうした?』

自然と上目使いになる、黒目がちな瞳が、可愛らしくて仕方ない。



「洗ったよ」

『ん』

「食べて?」


差し出してきたのは、

夏らしい、涼しげな、
ガラスの器に盛られた…、

小さな赤い、実。


長い鞘につく、その実は、

艶やかな輝きを放ち、
程良い、丸みを帯びている…。



『綺麗なサクランボ、だな』

「キライ?」

『いや』

今が旬の果実。

一粒、何千円、何万円とまで跳ね上がる、

まるで、宝石のような果物。



『貰おう』

嫌いな訳ではない。

かといって、特別好き、という訳でも
ないが…。



「あーん」


頬を赤らめ、照れたように、言う。


そう言われて、

そんな風に言われて、

食べない奴がいるか…?


いるなら一度、拝めておきたいものだ。



『ん』

パクリ、と、口に含むと…、

鞘を引っ張って、実だけを口の中に
残してくれる。


種に気をつけながら、噛むと、

口に広がる、程よい酸味と甘味。



「おいしい?」

『ああ』

至近距離にある、ミィの顔。


さりげなく、ミィの手から器を取り、

もう片方の手を、髪の中に差し込み、


そのまま、唇を重ねる。



「…ん、ふぅ…」


舌と舌の間に種を転がして。

いつもとは違った、キスの触感を楽しむ。



「…ぷぁ……っんぅ!?」


驚いた声を上げ、動きが止まる。



『ミィ…、どうした…?』

「おじさん…、種…、飲んじゃった…」


どうしよう、と、不安気な声。



「お腹から…、芽、生えて来ない…?」

『……』

…驚いた。


まさか、ミィが、

俺の、ミィが…、

そんなことを言うとは…。



「おじ…さんっ…」

『心配いらない、生えて来ない』

生えて来る、筈がない。

生える訳がない。



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