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□A strawberry
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「イチゴちゃん、ってどう思う?」

『なにが、ですか』

「リンゴちゃんと俺の、子供の名前!」

『……死んでください』



- A strawberry -


「リンゴちゃ〜ん、いらっしゃ〜い」

『……』

困っている、事がある。



「リンゴちゃ〜ん?」

『……』

前々から、困って、困って…。

未だに、その困りは続いている。



「困った顔して〜、どしたの〜」


原因は、コレ。

保健医の、鈴原 一斗(スズハラ イチト)にある。



「残念でした。かれんちゃんなら、さっき
帰っちゃったよ〜」


…ん?

かれんが帰った、ってことは…。



「夕暮れ時の保健室という絶好の場所で…
リンゴちゃんと2人っきり…。あ〜も〜
俺、ど〜しよ〜っ」


どうもしません。

お願いですから、どうもしないで下さい。

こんなヤブ保健医と二人きりにさせる
なんて…かれん、恨むまじ。



『帰ります、さようなら』

「ちょ、ちょっ…! リンゴちゃん!!」


ここにいても、時間の無駄。

さっさと家に帰ってしまおう。



「ちょ、ちょっ…リンゴちゃんっ!!
ま、まま…待ったっ!」


焦り出す、声色。
慌てふためく、動作。

待てと言われて、待つ馬鹿が、どこに
いるのよ…。


聴こえないフリをして、保健室から出る
べく、踵を返す…と。



「綸子!」


ガバッ、と、背後から覆い被さられ…
動きを封じられる。



「行くなよ…綸子」


目に入る白衣の袖。

仄かにする…消毒液の匂いと、男物の
香水の香り…。

ああ、一斗だ…。



『学校では、抱きつかないで』

「じゃあ、ソファーに座って?」


そう言うと…再び、綸子、と囁く。

コイツは…、絶対知っててやってる…。

本当は、私が綸子、と呼ばれることが
好きなことも。

あたしが、本音で言ってるわけじゃない
ことも。


全部、コイツには…お見通し。



『…わかりました…から、離してもらえ
ませんか?』

「お姫様抱っこで、ソファーまで運んで
あげるよ」

『遠慮します』

「即答!?」


何を考えているんだろう。



「じゃあチューしよっか?」

『学校で、そんなことしません』

なにが、じゃあ、なんだろう。



「学校以外で…会えないじゃん」


本当に、保健医なの…?

ふてくされたその姿は…、とても成人した
三十路の大人には見えない。



「リンゴちゃんの身体、や〜らかい」


私…なんでこんな人と、付き合っちゃった
んだろ…。



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