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□When you wish upon a star.
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「あ、これ、初めて読む…。朋くんのお母さんが選んでくれる本って、どれも面白くて、すっごく好きなんだぁ」


彼女は母親の持つ本、全てを読破した、俺はそう母親から聴いていた。

本嫌いな俺が見ても、彼女の手元にある年期の入った本は新刊でないことがわかる。

つまりその本は…以前、彼女は手に取ったことがあるということ。



「楽しみだなぁ」


それを、彼女は覚えていない。

彼女にとって、周囲の人間が何気なく与える情報一つ一つが、未知なのである。



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ある朝、彼女は目覚めると、記憶を無くしていた。

幼い頃から傍にいた俺のことは疎か、自分の両親のことも…、自分自身のことさえも、忘れてしまっていたのである。

すぐさま病院で検査を受けると…“全生活史健忘”と、何やら難しい病名を言われ、その場にいた彼女の両親と俺が医師の説明を聴いた。

つまりは、記憶喪失。

発生以前の出生以来、全ての記憶が思い出せない状態なのだそうだ。



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