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□映画
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行くところは血にまみれ、肩から生える両腕はなぶり殺す力しか欲さない。
闇夜が体を蝕むごとに、引き連れるその影は濃さを増していった。
私の口はただただ解せぬ見えぬと繰り返してきたのだが、いつごろか本当にわからなくなった。
健全な魂と愛に満ちた剣 … が…?


知らない。


思惑を止めにして己に返ると、どさりと音を立てて手中の腰骨が地面に落ちた。無幻は掘っ立て柱に腕をくくりつけられたまま、その脚の間からは白濁した水分が溢れるように流れ出ていた。汗まみれの薄い体は痙攣混じりに震えて止まなかった。


四つん這いに伏した無幻の尻を開き、掻き出そうとした。指で拡げると無幻は頭を動かしてあっと言う顔をし、かすれ声で切れ切れに、腕と言った。

縛された腕は血が滞り冷たく固まっていて、奇妙に懐かしく不気味で恐ろしかった。

なるほど自由を奪うとはこういう事か、およそ美しいものではないのだ。こんな事は健全な精神では到底なし得ない。

拘束をほどくとその腕は力なく地面に落ちた。それを抱きかかえるように、震える胴が丸く縮まってゆく。
未だに見下ろす態勢のままその様子をただじっと眺めた。

折り畳まれた無幻の体はあまりにも小さい。
普段横を歩く人物のそれとは思えないほどに、遠目で見ればまるで子どもだ。
背丈は大差ないはずと思いつき、くすぶる罪悪感をもみ消した。


無幻の体を撫でるようにふき、壁にもたれさせ傷ついた膝を舐めた。
無幻は何も言わず唇の端をついとつり上げて笑ったあと、両腕で私の後頭を包んだ。こちらを見ないままの顔が近付き下唇を噛まれた。

今日は ゆるせよ
触れたまんま、
離れねえで 眠れ

唇が鼻先に触れしゃがれ声のたび動くがわかる。言い終えるまでしばらく待った。無幻はそれを私の口に放り込んだあと自分の口で塞いだ。
いつも詫びるには遅い、だからせめてそのままで、離れず眠ることにした。



殺伐と暴虐を腸に刻み込まれてもなお、その目は未だ景色の全てを映しているか。
純粋に輝くものをただそれとして、美しいと認めてやれるか。憎悪の記憶に妨げられ眠りから目を覚ますことはないか。
その尖った腕と小柄な肩先で、それらは背負いきれるのか。





end



…惚れてます ょ 彼。

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