短編

□七夕恋物語
2ページ/5ページ



「・・・あっそ、じゃ勝手にしろ」



親父が許可してしまったものは仕方がない。

七夕でもなんでも勝手にやってくれ。

俺は知らん。




「えっ、劉ちゃんは?」



放置を決めた俺が家の中に入ろうと、玄関に足を向けると、香奈の慌てたような声。




「部屋で寝る・・・って、おわっ!」

言い終える前に背中に何かがぶつかった。



足元に転がっているのは可愛らしいイミテーションジュエリーのついたミュール。

「ってぇ!!香奈、こんなもん投げんなよ!」




香奈の顔を見て俺はぎょっとした。

香奈が泣いていたから。




「なんで、お前は泣いてんの・・・」

「わかんない・・・」




自分でも理由がわからないらしい香奈はあふれてくる涙を拭おうとしない。

さすがに言い過ぎたか、と俺は俺で反省する。

いくら生意気だといっても中学生相手にやりすぎたかもしれない。





「はー。とりあえず泣き止め。な?」

ぽんぽんと昔よくやっていたように頭を撫でてやれば、パシッと払いのけられた。


このガキ・・・。



「子ども扱いしないで!」

「は?ガキをガキ扱いして何が悪い」

「ガキじゃないっ!」

「ガキだ」

「ちがう」

「ガキ」





・・・やばい、これじゃ埒があかない。


ガキ相手に何をやってんだ、俺は。




「わかった、わかった。で、お前は何が不満なワケ?」

「・・・それがガキ扱いだってば」

「ん?」



「・・・なんでもない」




それきり香奈は口を閉ざしてしまった。




夕暮れの庭に静かな時間が流れる。

それは決して心地いいものではない。



気まずさが立ち込める空間に、準備の途中の七夕の笹。





その空気に耐えられなくなったのは俺が先だった。




香奈が途中まで準備していた笹に飾りをつけていく。




ったく、どうやってこんなに持ち込んだんだ。

15歳の少女が一人では運べるとは思えない立派な笹にダンボール2箱分の飾り。





「な、に・・・してるの、劉ちゃん」



「飾りつけするんだろ?早くしねーと親父たち帰ってきちまうぜ」

「うん・・・!」



やっと笑った香奈に、俺は不覚にも可愛いと思ってしまった。

いや、これはあくまで妹に対する兄の気持ちだ、うん。





次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ