短編

□June bride〜花嫁の妹〜
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家に帰ると、玄関には見覚えのない男モノの靴があった。

お客が来ているらしい。

そろりと廊下を進み、そのまま自室に行こうと、階段に向かう。

「茉莉花ー?帰ったのー?」

階段を数段上ったところで、気配に気がついたらしい母がリビングから顔を出した。

「あ、うん。ただいまー」

「おかえり。荷物置いたらちょっといらっしゃい」

「?わかったー」

言われたとおり、荷物を置いてリビングに向かった。

カチャ

リビングに入ると男の人がいた。

彼が靴の主らしい。

「あ・・・こんにちは」

ぺこ、と頭を下げる。

「こんにちは、茉莉花ちゃん」

ふわり、と微笑む顔。

それはよく知った、懐かしいもの。

「理人、さん?」

「久しぶり」

「あの・・・」

「理人君、甘いもの平気だったわよねー?ってあら、茉莉花いたの。あなたも食べる?ケーキ」

突然現われた母に遮られた。

「あ、うん。食べる」

手伝うよ、と言ってリビングを出た。



・・・なんとなくその部屋に二人でいるのが気まずかったから。



「懐かしいでしょう?茉莉花、理人君のこと大好きだったものねー」

「お、お母さん!やめてよ、昔のことでしょ」

やっとリビングに落ち着いて、お茶を飲みながら昔話に花が咲く。

「でも、本当に懐かしいなー。茉莉花ちゃんもまだ小学生で、百合にひっついててさ、かわいかったなー」

「・・・もう、理人さんまで!」

「そうねぇ、百合が死んでもう10年だもの。懐かしいはずね」

しんみりと母が言った。

「あら、嫌だ私ったら。駄目ね、もう昔のことなのに」

ごめんなさいね、そう言って母は笑った。





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