短編

□桜の季節
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心地よい風に運ばれて、桜が庭に舞い上がる。



庭師によって手入れされた庭に植えられた桜。

噴水に美しい彫刻、アンティーク調のベンチ。

そんな庭の、綺麗に刈られた芝生の上に女が一人、身体を投げ出すように寝ている。

まだ年若い女は、着ている服がどうなっているかなど気にする様子もない。

「おい・・・そんなに堂々とサボるたぁ、いい度胸だな。ん?」

広い庭に現れた男が、女の傍に近寄り、声を掛ける。
一目で高級品だとわかるスーツを身に纏い、偉そうに言う彼は女の上司。

黙っていれば、まさに育ちの良い上流階級の子息そのものと言える彼だが、何をどう間違ったのか、口がものすごく悪い。

しかし、その俺様思考でずっと通してきたらしい彼、アレックス・バトラーは見事に実家の事業を拡大させ、今や経済界をも牛耳る成功者。

人生の勝者である彼をたしなめる人間などいるはずもない。

話しかけることさえ、できる人間は限られている。

女はそんな数少ない人間の一人だ。

と、いうよりも彼女ほどアレックスにずけずけと話せる人間はいないかもしれない。

「サボってなんかいませんよ。ちょっと休憩していただけです、ボス」

女はそう言って起き上がると、服についた草を手で払った。

「はっ!サラ、お前はどんだけ休憩する気だ?ずいぶん長い休憩時間みたいだが?」

アレックスの嫌味を特に気にするでもなく、サラは少し考え込む素振りをして答える。

「そうですねぇ・・・2時間。いえ、3時間といったところでしょうか」

「そんなに休みてぇんなら、永い休みをくれてやるぞ。働く気がないなら、クビだ。どうだ?サラ」

「いいえ。もう、充分休憩しましたからその必要はありませんよ、ボス」

「はんっ!よく言うぜ。だったら、とっとと仕事に戻ったらどうだ?」

「まあまあ、そんなに焦らなくてもいいじゃないですか。ボスも一緒にどうです?桜が綺麗ですよ」

サラにそう言われ、庭の桜が見事に咲いていることにアレックスは初めて気付いた。

いつだったか、サラが桜を見たいと言いだし、最初は無視していたが、あまりにしつこいので、アレックスが手配させて何本か屋敷の庭に植えさせたのだ。

何かと日本好きのサラはテレビか何かで見た「花見」というものをしてみたかったらしい。

その桜がやっと咲いて、仕事など手に付かなかったのかもしれない。

そういうところには、呆れるほど自分に素直な女だから。





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