BLEACH

□白薔薇の棺
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真っ白な薔薇の花弁が敷き詰められたその冷たい匣に横たわる躯は血塗れで、美しかった葡萄色の双瞳は淀み濁り、裂けた場所から崩れていく愛しい兄に僕はさよならの口付けをした。



【白薔薇の棺】




ものごころついた頃から兄貴は僕の傍にいた。流れるような金髪と、珍しい紫色の目をした、世界でたった一人の大好きな兄さん。引っ込み思案で部屋に籠もりきりの僕の相手をしてくれた兄さん。僕の我が儘に真っ正面からぶつかって、喧嘩をしてくれた兄さん。僕の世界は兄さん、母さん、父さんで廻っていた。みんな僕にありったけの愛を注いでくれた。僕は彼らが大好きだったし、優しい父さんと綺麗な母さんの子供に生まれて、僕たち兄弟は世界で一番幸せだと思った。だけど両親の嫌味を云ったり、陰口を叩く下男下女や高慢ちきな家庭教師、父さんのご機嫌とりにやってくる貴族たちは吐き気がするほど下品で醜くて、僕たちはそいつらが大嫌いだった。そのことを母さんに話すと、母さんはいつも苦笑してあなた達の心はとても綺麗だからかしらね?と云った。綺麗なのは母さんでしょうと僕が云うと彼女は鈴を転がすようにころころと笑うのだった。




ある年の冬に、優しかった母さんが病気で死んだ。大好きなひととの別れというものが分からなくて、しんしんと降り積もる雪の中僕は泣いて喚いて駄々をこねたけど、もう母さんは帰ってこないんだよ、いつまでも我が儘を云っていては母さんも悲しむだろう?と父さんに諭された。栗色の立派な髭を生やした父さんの悲しむ顔を見たのは初めてのことだった。母さんが死んでからは、おやすみなさいのキスを兄貴がしてくれるようになった。まだ寝ないと意地を張るふわふわのネグリジェを着た僕を抱き寄せて、頬に軽い口付けをした後に子守歌を歌ってくれるのだ。母さんの方が上手だったね、と僕が云うと兄さんはきまって
「うるさいなぁ、そんな事言うんならもう歌ってやらないぞ」
と拗ねて僕の頬をつつくのだった。




僕はその下手くそな子守歌が好きだった。




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回転木馬のようにくるくると廻る生きていた頃の記憶を思い出しながら、僕は窓の向こう側──沈むことなく満ち欠けする事のない白銀の月を眺めていた。せっかく兄貴とお茶をしていたのに、不躾な奴らに邪魔をされてとても憂鬱だ。
「…っつうワケだ。現世のゴミ共を消すのにお前らを連れてく。いいな、イールフォルト?」
「ああ。」
他人の宮へ従属官を連れてずかずかあがってきたNo.6を軽く睨みつけて、僕はソファーに座る兄貴に後ろから抱きついた。
「そんな事、君一人でやればいいだろうグリムジョー。だいたいそれは藍染様のご命令でないんだから別に兄貴を連れて行かなくても────」
グリムジョーに抗議する僕に、兄貴は節くれだった指で僕の頬をぷに、と軽くつついた。

僕たちが生きていたあのころから変わらない、兄貴の癖。

「いや、俺は行ってくる。藍染様の障害になる物は少しでも少ない方がいいだろうし」
な?と笑う兄貴を見て、ああどうしたら兄貴を引き止められるだろうか、誰かこの莫迦な浅葱色の頭を冷やしてくれ!などと僕が考えているうちに、「うし、じゃ行くぞ」というグリムジョーの言葉を合図に正門へと彼らは歩き出した。
「ま、待ってよ兄貴!」
僕は慌てて遠ざかっていく影を追いかけようとしたけれど、出来なかった。何故なら────

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