甘い虚言

□日本茶でつむぐ未来
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『もーいーくつ寝ーるーとーおーしょーおーがーつー』

嵌め込みの大きな液晶画面の向こうで着物を着た小さな子どもが両親と思われる大人の方へ駆けていく。幸せそうに笑う三人がアップになって大きな鏡餅の写真と入れ替わった。どうやら鏡餅の宣伝のようだ。

「もう正月なのかぁ。なんかあっという間だったな。」

両手に包み込むようにして持っている熱い湯飲みを顔に近づけて揺らす。真ん中ほどの水面もチャポチャポ揺れた。まだ熱そうだから飲むのはやめとこう。

「ウチもそう思う。」

ズズズ、と茶をすする音がした。日本茶は音をたてて飲むんだよ、と教えてからスパナは律儀にそれを実行している。けれども紅茶の癖が抜けないのか熱湯で日本茶を淹れるのだ。少し温い方が美味しいし飲みやすいよ、と言ってもこれだけはなおらなかった。いい茶葉を使っているだけにもったいないと思う。

「来年はさ、俺が美味しい日本茶淹れるよ。」
あの鬼のような家庭教師にうまい茶くらい淹れられるようになっとけ、と厳しく稽古されたことがあった。お陰で今ではかなり上手になったと思う。少なくともお店に出せるくらいで、プロには負けてしまうのだが。

「ほんとか?ウチ、ボンゴレが淹れた日本茶飲みたい。」

画面に魅入っていたスパナがキラキラと目を輝かせながらこちらを向く。とても同い年くらいとは思えないような好奇心に満ちた瞳が、まっすぐ自分をとらえる。普段は機械にしか向けられないそれに不覚にも心臓が不整脈を起こした。

「あ、でも一回きりはイヤだ。ウチが淹れるよりボンゴレが淹れる方がうまいから。これからずっと淹れてくれ」

キラキラしたままの言葉に今度はノックアウト。それってまるでプロポーズみたいじゃんか!頬に熱が集まっていく。

「いいよ。」

あぁ、俺って翻弄されっぱなし。こうなったら絶対にすごい美味しいお茶を淹れてやるんだから!飲み納めだと思ってだいぶ冷めてきたスパナの淹れたお茶をあおった。

『あけましておめでとうございまーす!!』

テレビが騒がしくなった。気が付いたらもう、新年。カウントダウンし損ねたな……。思わず呆然としてテレビを凝視してしまった。

「あけましておめでと、ボンゴレ。」

はっとして慌てて口内のお茶を飲み込んだ。

「あけましておめでとう、スパナ。」

今年も一緒にお茶が飲めますように!


end

A happy new year!!
 

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